著者
紅粉 美涼 中井 寿雄
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.13-17, 2022-01-13 (Released:2022-01-14)
参考文献数
15

東京都をモデル地区として、2017年6–9月に高齢者がエアコン未使用で熱中症を発症し救急搬送され2日間入院した場合の費用と、暑さ指数25°C以上の時間にエアコンを使用した場合の電気料金の推計値との差を求めた。医療費の1割負担額と電気料金の差は6月8,067円、7月−3,840円、8月−2,625円、9月6,528円、2割負担額との差は、6月16,917円、7月5,010円、8月6,225円、9月15,378円、3割負担額との差は6月25,766円、7月13,859円、8月15,074円、9月24,227円と推計された。負担額内のエアコン利用のカットオフ時間値は1割が305.2時間、2割が655.5時間、3割負担者が915.5時間だった。高齢者にエアコン使用を促す際は、入院を契機をとした基礎疾患の悪化のリスクや、入院期間の延長の可能性を合わせて情報提供する必要がある。経済的に余裕がない者は、カットオフ時間数を参考にした過度な節約に注意が必要と考えられる。
著者
杉浦 真治
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.347-359, 2012-11-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
80
被引用文献数
2

一般に、島の面積が広くなればそこに生息する動植物の種数は増加する。このような島の種数-面積関係を生み出すメカニズムに関する研究には、Robert MacArthurとEdward Wilsonによる島嶼生物地理学の理論の提唱以来40年の蓄積がある。彼らの理論は、島だけでなく断片化した森林パッチなどの種数-面積関係にも適用されてきた。また、種数-面積関係はさまざまな視点から拡張されてきた。例えば、島の種数-面積関係に種間相互作用を考慮するという試みがある。種間相互作用は、古くは食物網、最近では動物と植物の相利共生系ネットワークとして注目されている。一般に、種数が増加すると種間の相互作用数も多くなる。このため、種間相互作用数は島面積とともに増加すると予測される。また、種間相互作用ネットワークの構造は構成種数に強く影響されるため、ネットワークの構造は島面積に関連することが予測される。これらの予測は、小笠原諸島における植物とアリとの種間相互作用ネットワークで確かめられた。こうした種間相互作用ネットワークと面積の関係は、島の種数-面積関係と同様に、大陸における植生パッチなどにも適用できる。実際、南米大陸における植物-訪花昆虫のネットワークや植物-潜葉性昆虫-捕食寄生性昆虫の食物網で確認された。さらに、北米大陸における植物-訪花昆虫とのネットワークの解析によって、特定の空間スケールにおいて種間相互作用数やネットワークの構造が森林面積と強く関係することが示唆された。このように、種間相互作用数およびネットワーク構造は、島面積や植生パッチ面積といった生息地の大きさに深く関連している。
著者
奥山 睦
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 2015年春季全国研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.97-100, 2015 (Released:2015-07-31)

地域の内発的な動機付けによる活性化が求められている現在、実践共同体の存在は、知識創造によってイノベーションの契機となり、地域にとって有用な存在になると考えられる。そこで本研究では、実践共同体の特徴と本質を先行研究からレビューした上で、東京都大田区の下町ボブスレーネットワークプロジェクトの事例研究を主として、実践共同体の地域活性化における実態を把握し分析する。その上で、実践共同体が地域活性化において果たしうる役割について提言し、その妥当性を検証し、有用性を明らかにすることを目的する。
著者
Jianjun Gao Zhenxue Tian Xu Yang
出版者
International Research and Cooperation Association for Bio & Socio-Sciences Advancement
雑誌
BioScience Trends (ISSN:18817815)
巻号頁・発行日
pp.2020.01047, (Released:2020-02-19)
参考文献数
7
被引用文献数
58 1735

The coronavirus disease 2019 (COVID-19) virus is spreading rapidly, and scientists are endeavoring to discover drugs for its efficacious treatment in China. Chloroquine phosphate, an old drug for treatment of malaria, is shown to have apparent efficacy and acceptable safety against COVID-19 associated pneumonia in multicenter clinical trials conducted in China. The drug is recommended to be included in the next version of the Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Treatment of Pneumonia Caused by COVID-19 issued by the National Health Commission of the People's Republic of China for treatment of COVID-19 infection in larger populations in the future.
著者
小野寺 誠 小泉 範高 藤野 靖久 菊池 哲 井上 義博 酒井 明夫 遠藤 重厚
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.307-312, 2014-07-15 (Released:2014-11-01)
参考文献数
18

症例は30代の女性。東北新幹線乗車中に下腹部痛が出現し救急要請となった。救急隊が病院選定を行う際に自分は医師であると話し前医へ搬送となったが,診察をめぐってトラブルとなったため当院紹介となった。救急隊からの連絡で身分証明書の提示を拒否していたこと,インターネット検索をした結果,氏名と所属が一致しないことを確認したために薬物依存の可能性を考え,前医に医師会への報告を依頼するとともに当院精神科医師による診察を依頼した。当院搬入時,下腹部の激痛を訴えており,一刻も早い鎮痛剤の投与を希望していた。患者によると,子宮頸管狭窄症の診断で海外の病院や都内大学病院で大腿静脈よりペンタゾシンとジアゼパムを静脈内投与していたと主張していた。精神科医師による傾聴後,痛み止めは施行できない旨を伝えていた最中に荷物より所持品が落下した。某大学病院や某研究機関研究員など多数のIDカードを所持しており名前も偽名であった。その直後に突然激高し,看護師の腹部を蹴り,当院から逃走した。30分後,当院より約10km離れた地点で救急要請した。搬送となった病院でセルシン® とソセゴン® を筋注したが10分程で再度除痛するよう訴えた。直後に岩手県医師会から「不審患者に関する情報」がFAXで届き,警察への通報を考慮していたところ突然逃走した。医師会を通じて調査したところ,前日には宮城県,翌日には秋田県の医療機関を同内容で受診していることが判明した。本症例を通して,救急医療機関においては,問題行動のある精神科救急患者を受け入れた際の対応マニュアルを,あらかじめ整備しておくことが望ましいと思われた。

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著者
宮崎 俊三
出版者
一般社団法人 日本鉄鋼協会
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.427-436, 1987-03-01 (Released:2010-01-18)
参考文献数
87
被引用文献数
2 1
著者
佐々木 瑞希 石名坂 豪 能勢 峰 浅川 満彦 中尾 稔
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.123-126, 2019-09-25 (Released:2019-11-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2

2015年9月北海道斜里町で捕獲されたエゾヒグマを剖検したところ小腸より大型の条虫を検出した。頭節の形態および生殖器の配置から,Dibothriocephalus属と思われた。虫体の一部からDNAを抽出し,核28S ribosomal RNA geneおよびミトコンドリアcytochrome c oxidase geneの一部を解析した。その結果,DNAデータベース上の日本海裂頭条虫のものとほぼ一致し,本種を日本海裂頭条虫と同定した。本症例は,エゾヒグマから検出された条虫を日本海裂頭条虫と同定した初めての報告である。
著者
豊原 英子 猪谷 富雄
出版者
日本作物学会中国支部
雑誌
日本作物学会中国支部研究集録 (ISSN:09134670)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.22-23, 2002-08-01 (Released:2018-01-30)

クズ(Pueraria lobata Ohwi)は万葉の昔から秋の七草の一つに数えられ、秋の風物として鑑賞されてきた。多くの歌にも詠まれていて、古人の見たクズの生態的特徴を良くとらえていて味わい深いものもある。又、図1に示すように、クズの利用価値も高く評価されていて、根から採られるでんぷんは病人の高級な食材、原料として古くから使われてきた。漢方薬としても利用されてきた。その他、葛布や高級襖紙、また紐代わりや工芸品素材としても使われ、人々の暮らしの中にクズ全体が根付いていた。ところが、戦後、農耕用肥料や牛馬の餌その他あらゆることに殆ど使われなくなり、現在ではクズが猛威を振るって林業関係者、農業従事者などには、最強の雑草として嫌われている。このようなクズを見直す為、昔から我々の祖先が生活の中で深く関わってきた自然界のクズを現代人はどんな捉え方をしているのかを探るためにアンケート調査をし、実態把握をした。1人でも多くの理解者を得て、クズを有効に利用したいと願っている。
著者
長濱 澄 森田 裕介
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.291-300, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
16
被引用文献数
4

本研究では,オンライン学習環境を想定した映像コンテンツの高速提示と学習効果の関連性を明らかにすることを目的とした.1倍速,1.5倍速,2倍速の提示速度の異なる映像コンテンツを3種類作成し,大学生75名に提示した.作成した映像コンテンツは高等学校における情報科の宣言的知識を扱ったものであった.学習の前後に実施した理解度テストの得点から,学習効果を検証した.また,3種類の提示速度に対する主観評価を,質問紙を用いて調査した.理解度テストの分析結果から,提示速度の相違は,学習効果に影響を与えないということが明らかになった.一方,質問紙調査の結果から,映像コンテンツを利用した学習に適した提示速度として,1.5倍速が最も支持されているのに対し,2倍速に対する主観評価は肯定的ではないことが明らかになった.これらのことから,ある条件によっては,一定時間に,これまでの1.5倍から2倍の学習ができる可能性が示唆された.
著者
佐藤 久長 西田 匡志 柏木 悠 櫻井 光昭 青木 隆志
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1-11, 2021 (Released:2021-01-20)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

脳機能データの分析から聴覚情報による認知効果の向上が確認され,トンネル内におけるスピーカーを用いた音声による注意喚起システムが開発された.今回,このシステムを用いて従来視覚情報で行っていた渋滞時の速度回復情報提供を,国内で初めてスピーカーを用いた音声案内で実施した.本研究では,システムの概要と小仏トンネルへの適用方法を示すと共に,車両感知器によるデータとETC2.0プローブデータによる走行履歴データを用いて音声情報の有無による効果を検証した.その結果,例えば音声情報が有ることによりボトルネックの渋滞発生時交通量が約8%増加し,渋滞中の平均速度が約10%高くなることや,渋滞発生確率が低下すること等を明らかにした.また音声案内によるボトルネック付近の速度上昇効果が上流側にも及んでいることが推察された.
著者
長 広美 柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.191-206, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
37

本研究は,先行研究から見えた調査上の課題点を踏まえ精度の高いSNS利用状況を把握すること,各SNS利用の代替・補完性について明らかにすること,そして,SNS利用が学業成績に及ぼす影響について体系的に解明することを目的とした。SNS利用時間の測定では,調査票調査や日記式調査にみられる自己申告によるものでなく,調査対象者の大学生(N=153)が所持しているスマートフォンのバッテリー使用状況を用いて収集した。学業成績の測定についても,先行研究の多くが採用している自己申告GPAではなく,専門科目の学期末試験の得点を用いた。分析の結果,LINEとInstagram,TwitterとYouTubeとの間にそれぞれ補完的な利用関係があることが明らかになった。学業成績には,LINE,Twitter,YouTubeの利用が負の影響を与えていた。つまり,これらのSNSの利用時間が増えるほど学業成績が悪くなることが示唆された。本研究結果は,SNS利用によって注意力が散漫になったり,SNSに費やす時間が学習の時間を減少させ,結果として学業成績の低下につながるという先行研究結果と整合性があるものであった。本研究では,SNS利用と学業成績との関連性の議論に実証的根拠を示すことができたとともに,当研究領域における現代社会のSNS利用行動の複雑さを解明する一つの可能性を見出した。
著者
Hirokazu KAWAGISHI
出版者
The Japan Academy
雑誌
Proceedings of the Japan Academy, Series B (ISSN:03862208)
巻号頁・発行日
vol.99, no.7, pp.191-197, 2023-07-31 (Released:2023-07-31)
参考文献数
18

The mushroom, Pleurocybella porrigens, is widely consumed in Japan; however, in autumn 2004, acute encephalopathy due to ingestion of the mushroom in a large group of patients was reported in Japan. We have continued working on the mushroom to clarify the mechanisms underlying the acute encephalopathy that occurred due to its consumption. The data collected to date have shown that three compounds, pleurocybelline (PC), a Pleurocybella porrigens lectin (PPL), and pleurocybellaziridine (PA), in the mushroom are potentially responsible for the onset of the disease; PC that exhibit lethal activity in mice and PPL formed a complex, and the complex of the two components exhibited proteolytic activity and disrupted the blood-brain barrier. Although PA was not isolated directly from the mushroom, the existence of this compound in the mushroom was predicted. The compound was chemically synthesized and its endogeneity in the mushroom was demonstrated. Furthermore, PA exhibited toxicity to oligodendrocytes.
著者
縄田 健悟
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.85.13016, (Released:2014-06-01)
参考文献数
24
被引用文献数
9 10

Despite the widespread popular belief in Japan about a relationship between personality and ABO blood type, this association has not been empirically substantiated. This study provides more robust evidence that there is no relationship between blood type and personality, through a secondary analysis of large-scale survey data. Recent data (after 2000) were collected using large-scale random sampling from over 10,000 people in total from both Japan and the US. Effect sizes were calculated. Japanese datasets from 2004 (N = 2,878–2,938), and 2,005 (N = 3,618–3,692) as well as one dataset from the US in 2004 (N = 3,037–3,092) were used. In all the datasets, 65 of 68 items yielded non-significant differences between blood groups. Effect sizes (η2) were less than .003. This means that blood type explained less than 0.3% of the total variance in personality. These results show the non-relevance of blood type for personality.
著者
砂田 安秀 杉浦 義典
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-11, 2021-04-09 (Released:2021-04-09)
参考文献数
37
被引用文献数
2

近年,マインドフルネスが効果をもたらすためには,他者に害を及ぼさず,思いやることを良しとする倫理(危害/ケア)を必要とする知見が提出されている。また,危害/ケアを欠いた場合,マインドフルネスが有害な結果をもたらす可能性が指摘されている。本研究では,想定される有害な行動として能動的攻撃を取り上げ,マインドフルネスと能動的攻撃の関連に対する危害/ケアの調整効果を検討した。大学生179名を対象とした質問紙調査を実施し,階層的重回帰分析を行った結果,危害/ケアが低い場合,マインドフルネスが高いほど,能動的攻撃性が高かった。この結果より,マインドフルネスは危害/ケアが欠如した中では有害な行動にむすびつく可能性が示唆された。以上を踏まえて,今後の研究では,マインドフルネスにもとづく介入による有害事象の可能性を検証する必要性が示唆された。