- 著者
-
益本 仁雄
宇都宮 由佳
中野 美雅
- 出版者
- 情報文化学会
- 雑誌
- 情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.1, pp.54-65, 1998-10
- 参考文献数
- 13
- 被引用文献数
-
3
筆者らは, 1992年以来, 北タイのある農村で情報化が村人と共同体に与える影響と彼らの意識, 行動, 生活価値観などの変容について継続研究を行っている。この村は, 情報流入が極く少量であったが, 1996年末の電化によるテレビの普及を契機に, 爆発的に情報が流入し, 人類の情報に対する歴史的変化の縮図の様相を呈している。電化後1年半経過した最近(1998年5月)の実態の分析結果を以下に示す。情報受信の総件数は, 電化半年後に比べ増加し, 特に口コミの増加が顕著であり, テレビやラジオから新聞・雑誌へのメディア選択の拡大がみられる。受信内容としては村外情報が増加し, 経済・景気, エイズ・衛生, 王室関連など顕著で, 生活商品, ファッションなどが登場して村人の関心領域の拡大を示した。さらに, 「情報」に対する理解や認識が村人に形成されつつあること, 外部情報を積極的に取り入れ商人との売買交渉で対抗するようになったこと, 人の家族の移動が活発になってきたこと, 就労形態・方法や生活価値観に変化がみられること, 周囲の村との所得格差が解消しつつあること, 他方, 村人の一部に情報化に対する拒否反応・過剰適応の存在などが観察された。