著者
吉田 光司 亀山 慶晃 根本 正之 Koji YOSHIDA KAMEYAMA Yoshiaki NEMOTO Masayuki
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.10-14, 2009-06

ナガミヒナゲシが日本国内で生育地を拡大している原因を解明するため、1961年に日本で初めて帰化が報告された東京都世田谷区と、1990年代以降急速に生育地が増加した東京都稲城市で生育地調査を行った。ナガミヒナゲシの生育地数は、世田谷地区と稲城地区の双方とも道路植桝で最も多く、次いで駐車場や道路に面した住宅地となり、自動車の通過する道路周辺に多いことが判明した。ナガミヒナゲシの生育地は道路植桝から周辺の駐車場へと自動車の移動に伴って拡大したと考えられる。この過程を検証するため、ナガミヒナゲシの在・不在データを応答変数として、道路植桝から駐車場までの距離と舗装の有無、それらの交互作用を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。AICによるモデル選択の結果、世田谷地区ではいずれの説明変数(距離、舗装の有無、それらの交互作用)も選択されなかったのに対し、稲城地区では距離(P=0.07)および距離と舗装の有無の交互作用(P=0.04)がナガミヒナゲシの存在に負の影響を及ぼしていた。これらの結果から、(1)帰化年代の古い世田谷地区では生育地拡大が完了しており、主要道路からの距離や舗装の有無とは無関係にナガミヒナゲシが生育していること、(2)稲城地区では生育地拡大の途上であり、その過程は道路植桝からの距離だけでなく、距離と舗装の有無との交互作用によって影響されることが示唆された。
著者
亀山 慶晃 大原 雅
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.245-250, 2007-07-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
31

クローナル植物の繁殖様式や生活史特性は極めて多様であり、栄養繁殖が集団維持に果たす役割も多岐に渡っている。また、栄養繁殖と有性繁殖のバランスは各種および集団が成立する生態学的要因と遺伝学的要因の双方を反映し、様々な時空間スケールで変化する。従って、クローナル植物集団の維持機構を明らかにするには、繁殖様式を変化させている要因と、各繁殖様式(繁殖器官)が集団維持に果たしている役割を理解する必要がある。著者らは浮遊性の水生植物タヌキモ類における不稔現象に着目し、不稔をもたらす原因、不稔グループの集団維持、潜在的な有性繁殖能力と遺伝子型多様度、体細胞突然変異と遺伝子型多様度について分子生態学的研究を進めてきた。本稿ではこれらの研究結果を紹介し、タヌキモ類の繁殖様式と集団維持について議論したい。
著者
能勢 裕子 亀山 慶晃 根本 正之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.185-191, 2009-11

全国的に個体数の減少が著しいギンランの生育地内保全を図るため東京都立川市にあるギンラン自生地に調査枠を7ヶ所設け、2006年4月から2007年6月にかけて草丈、葉長、葉数、花数及び基部直径を調査した。ギンランは両年とも4月上旬に出芽、5月中旬までに地上部の伸長成長が停止した。2007年6月中旬に、調査した194個体のうち23個体を掘り取り、総ての個体について2cm間隔で根部の横断片を作成、顕微鏡下で菌根菌感染細胞の占有面積を計測した。ギンランにおける菌根菌感染率は不定根から生じた分枝根で最も高く、次いで不定根の先端、中間、根元の順で高いという傾向があった。各個体の花数、葉面積、乾物重量のそれぞれと菌根菌感染細胞面積の間に強い正の相関が認められた。したがって共生する菌根菌量の多少がギンランの生育に強い影響を与えていると考えられ、ギンラン個体群を自生地で保全するためには、菌根共生の維持が重要だと考えられる。
著者
金澤 弓子 亀山 慶晃 李 景秀 濱野 周泰 鈴木 貢次郎
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.129-138, 2016 (Released:2016-06-30)
参考文献数
37
被引用文献数
2

早咲きのサクラ品種の多くは,カンヒザクラ(P. campanulata Maxim.)から作出されたと考えられてきたが,由来が不明な品種も多い.また,原種とされるカンヒザクラは中国,台湾,日本に生育するが,それらの遺伝的関係は明らかにされていない.本研究では,早咲きのサクラ品種の原種を推定するとともに,原種として重要なカンヒザクラについて,その地域集団の遺伝的組成に違いがあるのかを検証するため,AFLP分析を行った.早咲きのサクラ品種として14品種を取り上げ,これらの原種候補として,カンヒザクラとオオシマザクラ(P. lannesiana Wils. var. speciosa Makino),ヤマザクラ(P. jamasakura Sieb.)の3種を選定した.カンヒザクラは中国,台湾,日本に生育する個体を供試した.主座標分析(PCoA)およびSTRUCTURE解析の結果,中国,台湾,日本のカンヒザクラは,地域集団ごとに異なる遺伝的組成が示された.さらに,日本の早咲きのサクラ品種は,その大半が日本のカンヒザクラに由来しており,台湾の早咲きのサクラ品種は,その大半が台湾のカンヒザクラに由来することが示唆された.また,中国や台湾のカンヒザクラの中には日本の系統の遺伝子を保有する個体の存在が示唆された.これは,異なる地域のカンヒザクラ系統あるいは早咲きのサクラ品種からの遺伝子の移入の可能性も示している.早咲きのサクラ品種において,14品種のうちカンヒザクラとオオシマザクラの雑種が5品種,カンヒザクラとヤマザクラの雑種が4品種,原種の変異個体が3品種であると推測された.また残りの2品種ではそれぞれ複数の遺伝的組成を有していた.カンヒザクラの遺伝的多様性を適切に保全するためには,カンヒザクラやカンヒザクラに由来する品種は,日本・中国・台湾の各地域レベルで保全・管理していく必要がある.
著者
吉田 光司 亀山 慶晃 根本 正之
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.10-14, 2009 (Released:2011-07-26)

ナガミヒナゲシが日本国内で生育地を拡大している原因を解明するため、1961年に日本で初めて帰化が報告された東京都世田谷区と、1990年代以降急速に生育地が増加した東京都稲城市で生育地調査を行った。ナガミヒナゲシの生育地数は、世田谷地区と稲城地区の双方とも道路植桝で最も多く、次いで駐車場や道路に面した住宅地となり、自動車の通過する道路周辺に多いことが判明した。ナガミヒナゲシの生育地は道路植桝から周辺の駐車場へと自動車の移動に伴って拡大したと考えられる。この過程を検証するため、ナガミヒナゲシの在・不在データを応答変数として、道路植桝から駐車場までの距離と舗装の有無、それらの交互作用を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。AICによるモデル選択の結果、世田谷地区ではいずれの説明変数(距離、舗装の有無、それらの交互作用)も選択されなかったのに対し、稲城地区では距離(P=0.07)および距離と舗装の有無の交互作用(P=0.04)がナガミヒナゲシの存在に負の影響を及ぼしていた。これらの結果から、(1)帰化年代の古い世田谷地区では生育地拡大が完了しており、主要道路からの距離や舗装の有無とは無関係にナガミヒナゲシが生育していること、(2)稲城地区では生育地拡大の途上であり、その過程は道路植桝からの距離だけでなく、距離と舗装の有無との交互作用によって影響されることが示唆された。
著者
亀山 慶晃
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

水生植物は陸上の植物に比べると無性繁殖への依存性が強く、特に浮遊性の水生植物では植物体が断片化することによるラメット数の増加や、水鳥による長距離散布が集団の維持に大きな役割を果たしている。昨年度までの研究によって、浮遊性の水生植物タヌキモはイヌタヌキモとオオタヌキモの雑種第一代であり、有性繁殖能力は完全に失われているものの、広い範囲に、かつ両親種とは異なる生育地に分布していることが明らかとなった(Kameyama et al.2005)。本年度は、タヌキモがどのように形成され、集団を維持しているのかを明らかにするため、北海道苫小牧市と青森県津軽平野の計33の湖沼からタヌキモ類を採取し、AFLP分析をおこなった。その結果、1)タヌキモ類3種の各集団は大部分が単一のクローンで形成されていること、2)各クローンは複数の集団に認められ、特に津軽平野のタヌキモ5集団は全て単一のクローンであり、同一のクローンが苫小牧市にも分布していること、などが明らかになった。また、親種であるイヌタヌキモとオオタヌキモは完全に異所的に分布しており、両者の遺伝子型をどのように組み合わせても現存するF1雑種、タヌキモの遺伝子型を得ることはできなかった。これらの結果から、1)タヌキモは気候変動が激しかった時代、本来は異なる環境に生育するイヌタヌキモとオオタヌキモが偶然出会ったことで形成され、2)殖芽や切れ藻による無性繁殖によって生き残ってきた、と考えられる。不稔のタヌキモが長期間に渡って集団を維持している背景には、雑種強勢による旺盛な無性繁殖能力、水鳥による長距離散布、交雑による新たな環境への適応、などが関与しているものと推察された。
著者
亀山 慶晃 工藤 岳
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

高山生態系では雪解け時期を反映した連続的な開花現象が認められ、傾度に沿って花粉媒介者や近縁他種との関係が変化する。北海道大雪山系におけるツガザクラ属植物では、雪解け傾度に沿って雑種第一代が優占する広大な交雑帯が形成されており、雑種と親種の間で花粉媒介者を巡る競争が生じていた。親種の受粉成功は開花時期や年によって大きく変動し、繁殖成功(他殖率)に多大な影響を及ぼしていた。