著者
吉田 洋 林 進 堀内 みどり 坪田 敏男 村瀬 哲磨 岡野 司 佐藤 美穂 山本 かおり
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-43, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究は,ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus,以下ツキノワグマと略す)による針葉樹幹の摂食量と,他の食物の摂食量との関係ならびにツキノワグマの栄養状態の年次変動を把握することにより,クマハギ被害の発生原因を食物環境面から解明し,さらに被害防除に向けた施策を提案することを目的とした.ツキノワグマの糞内容物分析の結果,クマハギ被害の指標となる針葉樹幹の重量割合は,1998年より1999年および2000年の方が有意に高く(p<0.05),逆にツキノワグマの重要な食物種の一つであるウワミズザクラ(Prunus grayana)の果実の重量割合は,1999年および2000年より1998年の方が有意に高かった(p<0.05).また,ツキノワグマの血液学的検査の結果,1999年および2000年より1998年の方が,血中尿素濃度は低い傾向にあり,血中ヘモグロビン濃度は有意に高かった(p<0.05)ことより,1998年はツキノワグマの栄養状態がよかったと考えられる.以上のことから,クマハギ被害は,ツキノワグマの食物量が少なく低栄養の年に発生しやすく,ウワミズザクラの果実の豊凶が被害の発生の指標となる可能性が示唆された.したがって,クマハギ被害は,被害発生時期にツキノワグマの食物量を十分に確保する食物環境を整えることにより,その発生を抑えられる可能性があると考えられた.
著者
西川 泰央 吉田 洋
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.123-132, 1995-04-25
参考文献数
29
被引用文献数
5

ウレタン・クロラローズで麻酔したネコを用いて, 末梢入力に対する反射性の唾液(顎下腺唾液)分泌を調べるとともに, 咀嚼運動関連中枢である視床下部外側野, 扁桃体, 大脳皮質顔面野および大脳皮質咀嚼野への電気刺激による唾液分泌を調べて, 唾液分泌を含めた咀嚼運動への上位中枢の役割を検討した. 除脳動物を用いて口腔感覚による反射性の唾液分泌を調べたところ, 通常の咀嚼時に生ずるような非侵害刺激(触刺激および圧刺激)ではその分泌は少量であった. また, 上位中枢への電気刺激によって顎運動および舌運動が誘発されるとともに, 同側優位の唾液分泌が観察された. 唾液分泌量は非動化後も変化しなかったので, 咀嚼筋からの感覚情報は唾液分泌機序に関与しないことがわかった. さらに, 大脳皮質において, 一部の口腔内感覚投射部位と顎運動および唾液分泌に関連する局在部位とは, 小範囲で隣接しているかあるいは部分的に重なっていることが判明した. 以上の成績から, 上位中枢が反射唾液分泌に修飾作用を及ぼすとともに, 食物を咀嚼するために視床下部, 扁桃体および大脳皮質が活動し, 同時に口腔内からの感覚情報がこれらの上位中枢に達するとそこでの活動が高められ, その結果唾液分泌が促進されると考えられる.
著者
冨田 隆 田矢 功司 島村 栄員 岡田 喜克 岩崎 誠 五嶋 博道 吉田 洋一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.17, no.8, pp.1574-1578, 1984-08-01
被引用文献数
20

大腸癌治癒切除例のうち手術時隣接臓器への浸潤が認められ他臓器合併切除を施行したものは 17.2% (10/58) で, 長期生存は3年10ヶ月, 2年6ヶ月の2症例であるが, 局所再発や播種性腹膜炎による死亡は2例のみで, 合併切除の有効性を示すものと思われた. 肉眼的他臓器浸潤例のうち組織学的に癌浸潤は 57.1% にみられ, 他の42.9%は結合織や膿瘍形成による炎症性癒着であった. 特に膿瘍形成例でその内腔に癌細胞が浮遊し, 相手臓器まで膿瘍腔が連続進展していることから癌浸潤が考えられた. したがって炎症性癒着といえども癌直接浸潤を考慮すべきである.