- 著者
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山村 善洋
- 出版者
- 宮崎大学
- 雑誌
- 萌芽的研究
- 巻号頁・発行日
- 1997
南九州火山灰土壌地帯は,元来,河川水,湧水,地下水あるいは溜池を水源とする天水依存型の農業地帯である。ところが,この地域は戦後の50年の間に,土地利用形態の変化,農地の減少や河川改修等によって水文環境が相当に変化し,河川水位や地下水位の低下,あるいはため池や湿原の減少等の水環境の変化が生起している。その結果,気温の上昇と湿度の低下,霧の発生の減少等の気象環境変化が認められている。この様に水環境の変化が進行する中で,ダム・堰・調整池,水路,パイプライン等の建設を含む農業水利事業が完了したり,進行中であったり,あるいは今後着工する地域がある。ところで,農業水利事業とは新たな水環境創生事業に他ならない。卑近な事例として高鍋防災ダムがある。築造され30年経過し,ダムの効果が発揮されていると同時に,湿原が出現し,今その保存のあり方と環境教育の一環として注目を浴びている。また,昨夏の無降水・猛暑による早魃被害が報じられた一方で,一ツ瀬地域の水利事業完了地域ではその事業効果が報じられた。この様に農業用水は単に安定した作物生産や営農上の観点から,農業・農村の活性化に貢献するばかりでなく,周辺の大気・微気象環境を良好にし,用水として使用される過程において,また,使用された結果として,地表水あるいは地中水・地下水として3次元的に地域水環境に影響を及ぼしていることが明らかになった。このように農業用水は地域水環境の保全に対して公益的機能をもっている。しかるに,農業用水も取水・利用には利水上の制限があり,水利施設の観点からの用水管理のあり方が重要な課題となっている。そのためには水利用の実態と気象条件との関連を詳細に解析し,水使用量の推定を行うことが重要な要因となる。気象変動の予測にはひまわり画像が有益な情報であり,この利活用による農業水利施設の管理が可能であることを確認できた。