著者
山縣 宏之
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.282-297, 2007-09-30

本稿の目的は,米国シアトルにおけるソフトウェア企業の立地要因と市場地域に関する独自調査データを分析し,ソフトウェア企業集積地としての特徴の一端を浮き彫りにすることである.シアトルはマイクロソフト社の主要拠点であり,巨大企業中心の産業地域として注目されてきた.分析結果は下記の通りである.(1)重要な立地要因は創業者・CEOの個人的選好(地元志向)と技術者・エンジニアの確保であり,とくに個人的選好(地元志向)が強く影響している.なお技術者の賃金水準は日本の地方都市のように重視されてはいない.これは業種特性(パッケージソフト業種が多い)および企業の業務(自社ソフト開発企業が多い)による可能性がある.(2)多数のソフトウェア企業がビジネスを開始した1990年代,ベンチャーキャピタル・エンジェル投資などより多様な要因が立地に影響しているが,影響は限定的である.(3)サンプルの多数を占めるパッケージソフト業種は収入のほとんどを州外からえている.(4)主要顧客所在地域の80%/は米国であり,カリフォルニア,テキサス,ニューヨークが主要3州である.残りは海外であり先進国が主要市場である.(5)立地要因・取引面でマイクロソフト社と密接な関係にある企業は限られている.以上の分析を通して,シアトルには多くの独立したソフトウェア企業が存在し,米国の広域あるいはグローバルに存在する顧客にサービスを提供していることを確認した.