著者
渡辺 陽平 白濱 千紘 石田 清
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.379-390, 2021-12-01 (Released:2022-04-08)
参考文献数
49

北日本の多雪山地における環境条件の背腹性(冬季季節風の風上・風下斜面間の環境や植生の違い)に対応した,ブナとミズナラのすみ分けの実態とその生成要因を解明することを目的に,青森県八甲田連峰内の八幡岳山稜に,稜線をまたぐように東西方向に2調査区(高木林区,低木林区)を設置し,毎木調査と生育環境の評価を行った。その結果,両調査区ともに環境条件や両種の個体数の割合に背腹性が認められ,積雪と土壌水分の多い場所にはブナが,それらが少ない場所にはミズナラが多く分布していた。また,両種の個体密度と環境要因との間の因果関係を推定するためにパス解析を行った。その結果,最大積雪深と土壌含水率,斜度が両種の個体密度に大きな影響を与え,また斜度は地形が急峻な低木林区の方が大きな影響を与えると推定された。また高木林区において,ミズナラ個体密度はブナ以外の樹種から正の影響を受けていると推定された。以上より,多雪山地における両種の局所的なすみ分けには主に積雪や土壌水分の背腹性が関与し,地形が急峻な場所では斜度も大きく影響していることが示唆される。また,他樹種がミズナラの分布に正の作用を与えている可能性が示唆される。