著者
矢尾板 芳郎 中島 圭介
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

発生過程には様々な器官が形成されると同時に不要な器宮は退縮、縮小する。両生類幼生の変態では尾や鰓が甲状腺ホルモンの血中増加に伴い退縮する。本研究によって以下の結果を得た。1.ドミナント・ネガティブTH受容体(DNTR)をマーカー遺伝子と共に生きた幼生の尾の一部の筋細胞に発現させ、THのシグナル伝達を阻害することにより、幼生尾の筋細胞死はst62までは自殺的なものであることを示した。また、st62以降の急激な尾の退縮に伴って他殺的な機構(細胞外基質分解酵素の増加により、細胞外基質が分解され細胞が足場を失い"他殺的"に起きると考えられる細胞死)も複合的に作用しているということを明らかにした。2.退縮する尾において他殺的機構の主な担い手と考えられている細胞外基質分解酵素の阻害剤は、細胞外基質で構成されている脊索の崩壊を防ぐが、尾の退縮を部分的にしか抑制しない。このことは筋細胞等は甲状腺ホルモンにより直接、自殺で死ぬことを支持する。3.尾の筋細胞死に関連するとしてsubtraction library、differential hybridizationで単離された2クローンの全長cDNAをクローニングし、解析した。どちらも、アクチン結合性の蛋白質であった。しかし、尾由来の筋芽細胞株でこれらの遺伝子を強制発現させても、細胞の生存率に変化が観察されなかったことから、自殺遺伝子とは考えられなかった。4.テトラサイクリン誘導体で発現が増加するプロモーターの下流にcDNAを挿入することによって、cDNAライブラリーを作製し、幼生の尾の筋細胞に注入してリポーター遺伝子とともに発現させ、テトラサイクリン誘導体の存在下で飼育している。リポーター遺伝子の発現が処理後の細胞死により減少することを指標としてスクリーニングを行なっている。
著者
矢尾板 芳郎
出版者
(財)東京都神経科学総合研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.RNase Hによるsubtraction libraryの手法の確立した。その応用によりオタマジャクシの退縮中の尾に誘導される遺伝子のクローニングを行った。10種類程の遺伝子が得られ、その発現様式から3グループに分類された。第1グループは脳、眼球、後肢、尾にすベてに発現しているものである。第2グループは後肢と尾に発現されている。第3グループは退縮している尾に特異的に発現されている。2.変態前のオタマジャクシの尾から、甲状腺ホルモン非存在下で初代培養を始め、いくつかの継代培養可能な細胞株がいくつか得られた。そのうちの少なくとも1つ(12T-15)に、変態時に観察される血中量にほぼ同じ10nMの甲状腺ホルモンT3を添加すると、その細胞は1-2週間のうちに培養皿から死んで離れていく。培地に加えてある10%牛胎児血清を1%馬血清に代えて5日後、抗トロポニシンT抗体で染色すると、強いシグナルを得た。このことは、この細胞が筋芽細胞由来であることを意味する。3.退縮中の尾に特異的に誘導される遺伝子のうちで、細胞株12T-15を甲状腺ホルモンで処理して1日以内に誘導されるものは第3グループに属している1個の遺伝子だけであった。甲状腺ホルモン処理4時間後から甲状腺ホルモン受容体β遺伝子が発現され、8時間後からclone T6-5-12のmRNAが増加していた。甲状腺ホルモン受容体β遺伝子は処理前から発現されていた。そのことから甲状腺ホルモンが既存の甲状腺ホルモン受容体αと結合して甲状腺ホルモン受容体β遺伝子を活性化し、甲状腺ホルモンと複合体を形成し、更にclone T6-5-12の転写を開始させたと考えられる。その遺伝子の塩基配列を決定してホモロジー検索したが、何の類似性も得られていない。細胞株12T-15に、退縮中の尾に特異的に発現されている遺伝子を導入することにより細胞死の分子機構を解明できると考えられる。