著者
百崎 良 岡田 昌史 奥原 剛 木内 貴弘 緒方 直史 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.606-613, 2018-07-18 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

目的:本研究の目的は日本におけるリハビリテーション医学領域の研究登録状況を調査し,今後のリハビリテーション医学研究のあり方について検討することである.方法:UMIN-CTR(2005年以降)の登録データを用い,リハビリテーション医学領域の介入研究を網羅的に検索した.研究デザインや結果公開状況,登録時期などのデータを収集し,検討を行った.結果:21,410件のデータより,529件の研究が抽出された.研究デザインは並行群間比較が54%と最も多く,有効性の検討を目的とした研究が65%と多かった.比較試験の86%はランダム化がなされており,53%はブラインド化がなされていた.研究開始前の事前登録は50%あり,事後登録研究に比べ,結果の公開割合が少なかった.結論:研究登録数は経年的に増加していたが,研究の透明性を確保するためにも事前登録を心がける必要があると考えられた.リハビリテーション医学領域においても臨床研究を適切に計画・登録できる医療者のさらなる育成が重要だと考えられた.
著者
安井 健 鷲尾 智子 横田 一彦 粟井 直子 中原 康雄 緒方 直史 芳賀 信彦
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1569, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】副腎皮質ステロイドは自己免疫疾患をはじめ広く使用される薬剤であるが,投与期間が長期に及ぶことが多く,入院期間も長くなりがちである。副作用としての筋力低下は,遅発性に近位筋優位に生ずる点,生化学的検査所見の乏しさと確定診断の困難さ,発症の個人差などから見落とされやすく,ベッドを用い,階段の使用などに制限のある入院生活においては,転倒などの問題が顕在化してから主科よりリハ依頼があることがほとんどであった。当院では,理学療法を必要とする対象者の実態を把握し,もれなく早期から介入することを目的に,病棟と連携した試みを行っており,その内容と経過を報告する。【方法】対象病棟は,アレルギーリウマチ内科および呼吸器内科の専有病棟で,対象者は,ステロイドの長期加療(パルス療法と後療法,中等量(0.5mg/kg/day)以上からの漸減投与など)により長期入院が予定され,かつ,加療前の段階では歩行が自立しており,運動器障害による理学療法(PT)の介入の必要性が低いと考えられる患者である。この中で,病棟看護師のスクリーニング評価によって筋力低下が疑われた場合,看護師がリハサイドに報告するとともに主科にリハ依頼を提案,依頼のあった患者に対してPTを行った。スクリーニング評価の内容は,①近位筋の筋力評価(SLR,ブリッジ,頭部拳上,ベッドフラットからの起き上がり,ベッド端座位からの起立の各動作の可否やできた回数を,加療前と加療開始後4週毎に評価),②筋力低下の自覚症状を聴取,または患者からの自己申告,の2項目で,家屋状況の聞き取り(階段の有無,ベッド等の所有状況,しゃがみ立ちの必要性など)を補助項目とした。また患者への啓蒙のため,パンフレットを作成して対象者へ配布した。【倫理的配慮,説明と同意】リハ医学に関する後ろ向きの疫学研究に関して,東京大学医学部倫理委員会の承認を得ている。【結果】平成25年4月1日~10月31日に対象病棟を退院した患者のうち,ステロイド加療にて1か月以上入院した患者は28名(男8名,女20名,平均年齢60.0±15.6歳)であった。このうち,入院中を通して歩行が自立していたのは21名(男5名,女16名,平均年齢60.2±15.3歳),その中でPTが介入したのは6名(すべて女性,平均年齢57.8±15.0歳)で,すべてスクリーニングを通して依頼があった患者であった。歩行が自立していなかった7名は,入院前から有する運動器障害や呼吸障害の増悪,術後の廃用などの理由で既にリハ依頼があり,すべてにPTが介入していた。スクリーニングで選定された6名はすべて,上記①では問題を呈さなかったが,ステロイド加療開始後1ヶ月前後(平均36.2±20.5日,中央値28日,最大値77日,最小値23日)で自覚症状を呈し,PTの介入に至った。すべて自宅退院したが,自宅環境では,6名中5名において,階段昇降や床からの起立動作が必要であるなど,入院環境とのギャップがあった。診断のために%クレアチン尿の計測を行った症例はなかった。骨格筋の状態を,CT画像による大腿部や股関節周囲筋の筋量の変化で確認できた症例が1名あり,腸腰筋および大殿筋の明らかな萎縮を示していた。PTによる筋力評価は,起立や階段昇降の動作方法の介入中の変化や,入院前に行っていた方法との比較により行った。PT開始時の筋力低下の程度にはばらつきがあり,介入頻度は週2~5日で適宜調整した。退院時,6名中4名は入院前レベルの筋力まで回復せず,動作方法の指導や在宅環境調整を必要とした。【考察】スクリーニング症例はすべて,入院生活上では歩行に制限がなく,今回の関与がなければPTが介入することなく自宅退院となり,退院後の生活に困難さを生じた可能性がある。スクリーニングにおいては,とくに筋力低下の自覚症状の出現に着目することが有用である。生化学的検査所見に乏しいが,CT画像で筋量の推移を評価できる場合がある。PTによる筋力の評価では,全身性疾患や,呼吸・循環器系の障害をもつ症例には計測機器を用いた最大筋力の測定にはリスクを伴うため,起居動作や階段昇降における動作方法とそれに要する筋力に着目することが有効で,退院時指導の際にも有用である。【理学療法学研究としての意義】病棟看護師と連携することで,ステロイド筋症が疑われる患者へのPTによる早期かつ適切な対応が可能となり,円滑な自宅退院に寄与できる。