著者
辻 竜平
出版者
信州大学人文学部
雑誌
信州大学人文科学論集 = Shinshu studies in humanities (ISSN:24238910)
巻号頁・発行日
no.3, pp.29-44, 2016-03

「集団的自衛権」を容認したのは,どのような人だろうか.これについて,ナショナリズムと寛容・信頼の側面から検討した.そのために,2014年12月のいわゆる「アベノミクス解散」以前の2014年9月に松本市で収集された調査票調査のデータに対して,潜在変数を用いたパスモデルで共分散構造分析を行った.その結果,全体効果として,自民党支持者,愛国主義者,排外主義者,男性が「集団的自衛権」を容認し,共産党支持者が容認しないことがわかった.異なる価値観を持つ人を許容しない人も「集団的自衛権」を容認するという直接効果が認められたが,全体効果はなかった.
著者
辻 竜平
出版者
信州大学人文学部
雑誌
信州大学人文科学論集
巻号頁・発行日
vol.2, pp.67-79, 2015-03-15

口承文芸の一つの形態に昔話がある。本稿では,新潟県旧栃尾市で水沢謙一によって収集された「三枚のお札」のヴァリアントを事例に取り上げ,その地理的な分布と物語の内容の特徴が,通婚圏によって規定されているのではないかと考えた。農村集落では近隣集落から語り手の女性が結婚して移動したことから,近隣の農村集落間でヴァリアントの類似性が高く,かつ,比較的特徴的なものであると予想した。一方,町部では女性がより広域に移動したことから,町部における口承文芸のヴァリアントは,折衷的であまり特徴のないものになってしまうと予想した。コレスポンデンス分析の結果,予想はおおむね支持された。
著者
辻 竜平 針原 素子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.31-47, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
20

成人までの発達段階の途中にある中学生に,さまざまな人間関係についての認知と評価を問う質問紙調査を行った.認知については,9つの人間関係のカテゴリについてトライアド・テストとコレスポンデンス分析を,評価については,それらのカテゴリについて「身近さ」と「信頼」という側面から評価する尺度を,それぞれ用いて測定した.その結果,第1に,トライアド・テストとコレスポンデンス分析によって得られる「第1次元」が,特に「身近さ」や「信頼」の評価と関係が強く重要であることが示された.第2に,その「第1次元」・「身近さ」・「信頼」と「一般的信頼」との相関を見たところ,「友だち」「クラスメイト」「中学校」のカテゴリにおいて強い正相関が見られた.ここから,中学生という発達段階においては,いわゆる「還元アプローチ」の過程によって一般的信頼が形成されていることが示唆された.
著者
大浦 宏邦 海野 道郎 金井 雅之 藤山 英樹 数土 直紀 七條 達弘 佐藤 嘉倫 鬼塚 尚子 辻 竜平 林 直保子
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

秩序問題の中核には社会的ジレンマ問題が存在するが、社会的ジレンマの回避は一般に二人ジレンマの回避よりも困難である。本研究プロジェクトでは、Orbel & Dawes(1991)の選択的相互作用の考え方を拡張して、集団間の選択的な移動によって協力行動が利得のレベルで得になる可能性を検討した。まず、数理モデルとシュミレーションによる研究では、協力型のシェアが大きければ選択的移動が得になる可能性があることが明らかになった。次に所属集団が変更可能な社会的ジレンマ実験を行った結果、協力的な人は非協力者を逃れて移動する傾向があること、非協力的な人は協力者がいるうちは移動しないが、協力者がいなくなると移動することが明らかとなった。この結果は、特に協力的なプレーヤーが選択的な移動をする傾向を持つことを示している。実験室実験の結果を現実社会における集団変更行動と比較するために、職場における働き方と転職をテーマとした社会調査を実施した。その結果、協力傾向と転職行動、転職意向には相関関係が見られた。これは、実験結果の知見と整合的だが、因果関係が存在するかどうかについては確認できなかった。方法論については、基本的に進化ゲームやマルチエージェント分析は社会学的に有意義であると考えられる。ただし、今回主に検討したN人囚人のジレンマゲームは社会的ジレンマの定式化としては狭すぎるので、社会的ジレンマはN人チキンゲームなどを含めた広い意味の協力状況として定義した方がよいと考えられた。広義の協力状況一般における選択的移動の研究は今後の課題である。