著者
諸熊 一則 友清 和彦 高橋 元秀
出版者
熊本保健科学大学
雑誌
熊本保健科学大学研究誌 = Journal of Kumamoto Health Science University (ISSN:24335002)
巻号頁・発行日
no.19, pp.1-17, 2022-03

国内外に生息する毒蛇による咬傷患者は重篤な報告例が多く,毒蛇咬傷は感染症対策と同様に公衆衛生上の重要な課題である。蛇毒の成分には多種類の酵素,インヒビター等のタンパク質・ペプチド成分が含まれており,異なる作用物質の混在は,咬傷後は複雑な病態として現れることになる。このことが適切で有効な治療法の開発の妨げとなっており,毒蛇咬傷に対する新規治療用医薬品の開発が急がれる所以である。近年,急速に発展しているタンパク質工学的,分子生物学的分析手法は,蛇毒成分の構造分析,作用解析において多くの成果をもたらしている。本項では,蛇毒成分解析の現状を先行論文のプロテオーム解析結果や毒素成分の構造を整理し,特に血液凝固系に関連した毒成分については解析を追加した。また,ハブ,マムシ及びヤマカガシの国内咬傷被害の実情と咬傷患者への一般的な治療法であるウマ抗毒素製剤の導入や歴史的背景を含めて概説する。さらに抗毒素製剤の品質管理と今後の課題に関して概説する。