- 著者
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Das Happy Kumar
河野 銀子
Islam Azharul
- 出版者
- 山形大学
- 雑誌
- 山形大学紀要 教育科学 (ISSN:05134668)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, no.3, pp.173-185, 2008-02
要旨 : 国連ミレニアム開発目標に基づき、2015年までに世界中の全ての人々が基礎的な初等教育を受けられる環境の整備が進められている。バングラデシュは、1991年に初等教育を義務化したものの、基礎教育を受けられない者が依然として存在する。特に、都市部と農村部の識字率の格差は大きく、政府やNGOは「万人のための教育(EFA : Education for All)」活動に取組んでいる。本稿では、同国においてノン・フォーマル教育の提供に重要な役割を担ってきた主要NGOであるプロシカに注目する。プロシカは、1990年より初等一般教育のプログラムを実施してきた。 本稿では、プロシカの実践を対象とし、学習者の基礎教育の習得度を明らかにするとともに、社会経済的要因が学習者の基礎教育習得にどのような影響を与えているかについて考察する。調査は、ラジャヒ地区(農村部)とダカ地区(都市部)の第4学年以降の子どもを対象とし、「読み・書き・計算・生活上のスキルと知識」の4分野の習得度について実施された。調査の結果は、学校の類型別、性別、地区別ごとのクロス集計や多変量解析によって処理した。基礎教育習得度に対する社会経済的要因に関するおもな知見は次のとおりであった。 ・両親の学校教育経験は、都市部では影響があったが農村部ではなかった。 ・生活保護受給の程度は、都市部の女子においてのみ影響があった。 ・土地所有面積が大きい方が、習得度が高い傾向が見られた。 ・都市部では、世帯の月収による差が習得度に影響していた。 ・テレビへのアクセスはすべての子どもの習得度に影響があり、ラジオへのアクセスは都市部でのみ正の影響を与えていた。 以上のような分析から、プロシカの学校における基礎教育の習得度には、社会経済的要因の影響があることが明らかとなった。こうした社会経済的要因に関する格差を踏まえて、「万人のための教育」の取り組みが行われる必要がある。