著者
富所 敦男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.255-258, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
4

緑内障治療のなかで臨床的なエビデンスが確立しているのは眼圧下降治療のみである.そのエビデンスの多くの部分は1980年代から欧米で行われたいくつかのランダム化比較試験の結果に基づいている.しかし,日本人に多いことが明らかになっている正常眼圧緑内障に対する眼圧下降治療のエビデンスには不確実な部分が残っている.眼圧下降療法を行うにあたっては,まず個々の患者に応じた目標眼圧を設定した上で,薬物療法から治療を開始する.そして,十分な眼圧下降が得られない場合や眼圧が下降しても視野障害進行が停止しない場合などには手術療法の適応を検討することになる.眼圧下降薬などの効果の検証にあたっては眼圧の生理的変動の影響をできるだけ除去した上でその効果を検討していく必要があり,長期的には眼圧下降が視野障害進行の予防効果につながっているかどうか適切に評価しなくてはならない.神経保護治療や血流改善治療も眼圧下降療法に加え得る治療法として期待されているが,現在のところ臨床的なエビデンスはなく,今後の研究の進展が期待される.
著者
桜井 武
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.1, pp.19-22, 2007 (Released:2007-07-13)
参考文献数
12
被引用文献数
1

オレキシンは,近年同定された神経ペプチドで,オレキシン-Aと-Bの2つのアイソペプチドからなり,これらは共通の前駆体から生成される.オレキシンはOX1受容体とOX2受容体という2種のGタンパク質共役受容体に結合する.オレキシンは摂食中枢に存在し,また,脳室内投与によって摂食量を増加させる作用があること,OX1受容体拮抗薬が摂食量を減少させること,さらにオレキシン欠損動物の摂食量が若干減少することなどから,当初,摂食行動を制御する神経ペプチドとして注目された.その後,睡眠障害「ナルコレプシー」とオレキシンの深い関係が明らかになったため,オレキシンの覚醒・睡眠制御における役割,とくに覚醒状態の安定性を保つ機能が明らかになった.近年ではオレキシン神経の制御機構もあきらかとなってきている.本稿ではオレキシンの生理機能に関しては他の総説を参照いただくこととして,同定にまつわる話を中心に述べる.
著者
鍋倉 淳一 江藤 圭
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.3, pp.104-108, 2010 (Released:2010-03-14)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

従来のイメージング技術では生きた動物の内部で起きている現象をサブミクロンの解像度でとらえることは困難であった.2光子顕微鏡はこのような生体現象を捉えることができる強力なツールとして注目を集めている.そこで,本稿では2光子顕微鏡の動作原理,特徴と,この顕微鏡を用いたin vivoイメージング応用例について紹介する.2光子顕微鏡の動作原理である2光子励起過程は対物レンズの焦点でのみ起きるため,また,近赤外光を用いるため,低侵襲性で組織深部の構造物を観察することができる.2光子顕微鏡はこのような特殊な励起過程を誘導するために必要なフェムト秒パルスレーザーや外部光路を有している.また,大脳皮質の構造物のin vivoイメージングを行うためには動物に対し,観察窓の形成手術(頭蓋骨を薄く削るthin skull法,または頭蓋骨を取り除くcranial window法)を行う必要がある.それぞれの手術法には長所と短所があるため,目的によって手術法を使い分ける必要がある.観察窓を作成した動物に2光子顕微鏡を適用し,神経細胞やグリア細胞のin vivo形態イメージングや,カルシウムイメージングを用いた機能イメージングなどを紹介する.
著者
島 克司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.489-493, 2006 (Released:2006-08-01)
参考文献数
9

わが国における脳卒中診療の最近の動向として,脳卒中治療のガイドライン2004と脳卒中データバンク2005の発表がある.また,治療薬としては,急性期脳梗塞に対して推奨レベルAの血栓溶解薬rt-PA(アルテプラーゼ)の静注療法が,昨年末に承認され使用可能となった.脳梗塞急性期の治療薬に関して,ようやく,脳梗塞急性期のわが国における実態から,治療のガイドライン,ガイドラインで勧められる治療薬とその使用と治療成績の実情などを,現場の臨床医のすべてが共有できるようになった.本稿では,脳梗塞急性期の治療薬に関して,ガイドラインで推奨レベルの高い治療薬である,降圧薬,血栓溶解療法のrt-PAと抗血小板療法のアスピリンを中心に,脳梗塞の治療薬の現状の問題点を概説し,今後望まれる脳梗塞治療薬に関しても言及した.
著者
一ノ瀬 正和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.111, no.4, pp.195-203, 1998 (Released:2007-01-30)
参考文献数
37
被引用文献数
6 4

Airways are richly innervated by 4 nervous systems: adrenergic, cholinergic, inhibitory nonadrenergic noncholinergic (i-NANC), and excitatory NANC (e-NANC) nervous systems. Dysfunction or hyperfunction of these systems may be involved in the inflammation or airway hyperresponsiveness observed in asthmatic patients. The cholinergic nervous system is the predominant neural bronchoconstrictor pathway in humans. Airway inflammation results in exaggerated acetylcholine release from cholinergic nerves via dysfunction of the autoreceptor, muscarinic M2, which is possibly caused by a major basic protein or IgE. Vasoactive intestinal peptide (VIP) and nitric oxide (NO) released from i-NANC nerves act as an airway smooth muscle dilator. The effects of VIP and NO are diminished after allergic reaction by inflammatory cell-mediated tryptase and reactive oxygen species. Thus, in asthmatic airways, the inflammatory change-mediated neural imbalance may result in airway hyperresponsiveness. Tachykinins derived from e-NANC nerves have a variety of actions including airway smooth muscle contraction, mucus secretion, vascular leakage, and neutrophil attachment; and they may be involved in the pathogenesis of asthma. Since tachykinin receptor antagonists are effective for bradykinin- and exercise-inducedbronchoconstriction in asthmatic patients, these drugs may be useful for asthma therapy.
著者
高橋 徹 清水 裕子 井上 一由 森松 博史 楳田 佳奈 大森 恵美子 赤木 玲子 森田 潔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.252-256, 2007-10-01
被引用文献数
9

昨今の生命科学の進歩は薬理学の研究をより病態に応じた新薬の開発へと向かわせている.しかし,肝不全,腎不全,多臓器不全など,急性臓器不全は高い死亡率を示すにもかかわらず,その治療において決め手となる薬物は未だ開発されていない.これら急性臓器不全の組織障害の病態生理は完全に明らかでないが,好中球の活性化や虚血・再潅流にともなう酸化ストレスによる細胞傷害が大きな役割を果たしている.酸化ストレスはヘムタンパク質からヘムを遊離させる.遊離ヘムは脂溶性の鉄であることから,活性酸素生成を促進して細胞傷害を悪化させる.この侵襲に対抗するために,ヘム分解の律速酵素:Heme Oxygenase-1(HO-1)が細胞内に誘導される.HO-1によるヘム分解反応産物である一酸化炭素,胆汁色素には,抗炎症・抗酸化作用がある.したがって,遊離ヘム介在性酸化ストレスよって誘導されたHO-1は酸化促進剤である遊離ヘムを除去するのみならず,これらの代謝産物の作用を介して細胞保護的に機能する.一方,HO-1の発現抑制やHO活性の阻害は酸化ストレスによる組織障害を悪化させる.この,HO-1の細胞保護作用に着目して,HO-1誘導を酸化ストレスによる組織障害の治療に応用する試みがなされている.本稿では,急性臓器不全モデルにおいて障害臓器に誘導されたHO-1が,遊離ヘム介在性酸化ストレスから組織を保護するのに必須の役割を果たしていることを述べる.また,抗炎症性サイトカイン:インターロイキン11,塩化スズ,グルタミンがそれぞれ,肝臓,腎臓,下部腸管特異的にHO-1を誘導し,これら組織特異的に誘導されたHO-1が標的臓器の保護・回復に重要な役割を果たしていることを示す.HO-1誘導剤の開発は急性臓器不全の新しい治療薬となる可能性を秘めている.<br>
著者
大杉 義征 土本 信幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.6, pp.419-425, 2005-12-01
被引用文献数
3 5

アクテムラ注200(Actemra<sup>®</sup>)は遺伝子組換えヒト化抗ヒトインターロイキン-6受容体抗体(トシリズマブ:tocilizumab)を主成分とする点滴静脈内注射剤で,本年4月にキャッスルマン病(Castleman's disease:CD)治療薬として製造承認された.CDはリンパ節腫脹を伴う良性のリンパ増殖性疾患であり,1989年にCD患者のリンパ濾胞で大量のインターロイキン-6(IL-6)が分泌されていることが見出され,CD患者に特徴的な発熱,肝脾腫,食欲不振,および倦怠感などの臨床症状,並びに,高γグログリン血症,貧血,C反応性タンパク高値,および赤血球沈降速度の上昇などの検査値異常は,IL-6の作用に起因することが明らかにされた.トシリズマブは,IL-6とIL-6受容体との結合反応を競合阻害するIL-6阻害薬である.本抗体は種特異性が高く,マウスのIL-6受容体とは結合しないため,マウスモデル実験ではラットで作成したマウスIL-6受容体に対するモノクローナル抗体(MR16-1)が用いられた.ヒトIL-6遺伝子を導入したトランスジェニックマウスでは,CD患者と類似した症状,すなわち貧血,高γグロブリン血症,自己抗体産生,肝脾腫,尿タンパク,メサンギウム細胞増殖性腎炎などが発現するが,MR16-1を注射することで,これらの症状はほぼ完全に抑制された.トシリズマブは,健康成人での第一相試験の後,CD患者での第二相試験,並びに継続投与試験で有効性と安全性が検証された.すなわち,炎症反応の抑制に加えて,全身倦怠感,貧血,および低栄養状態等のCDに伴う異常所見の改善が確認され,腫脹リンパ節の縮小や副腎皮質ホルモンの減量が可能となった.主な副作用は,鼻咽頭炎,発疹,腹痛等であった.本薬は世界で初めてのCD治療薬であり,さらに我が国発の第一号抗体医薬品として,また,IL-6阻害に基づく治療薬として初めて上市されるもので,その特効薬的な治療効果に大きな期待が集っている.<br>
著者
秋吉 恵 重岡 恒彦 鳥居 慎一 牧 栄二 榎本 悟 高橋 宏正 平野 文也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.3, pp.175-184, 2002 (Released:2002-12-24)
参考文献数
31
被引用文献数
2 3 3

レボカバスチンは4-arylcyclohexylamine誘導体のひとつで,ベルギーのヤンセン社において合成された新規H1ブロッカーである.選択性が高く,特異的なヒスタミンH1受容体遮断作用のほかに,肥満細胞からのケミカルメディエーター遊離抑制作用や好中球·好酸球の遊走抑制作用を持つ.ヒスタミン点眼および感作動物への抗原点眼により誘発した結膜炎モデルにおいて,レボカバスチンは結膜炎症状を改善した.レボカバスチンはモルモットにおける抗原誘発結膜炎モデルの涙液中ヒスタミン量増加の抑制や,ヒスタミン点眼並びに抗原点眼による結膜炎モデルでの血管透過性亢進をレボカバスチンが抑制することが示された.また,ヒスタミンおよびサブスタンスP誘発鼻炎モデル並びに感作動物における抗原誘発鼻炎モデルにおいて,レボカバスチンは血管透過性亢進を抑制した.さらに,レボカバスチンの抗ヒスタミン作用用量と非特異的作用用量との差(特異性指数)は他の抗アレルギー薬と比べ非常に大きく,その非特異的作用としては眼瞼下垂が認められたのみであった.このような選択的,特異的な抗アレルギー作用と,局所投与経路の優位性を有するレボカバスチンは,臨床においてアレルギー性結膜炎並びに鼻炎治療薬としての有用性が期待され,国内外の臨床試験においてアレルギー性結膜炎や春季カタル,アレルギー性鼻炎の治療に有効かつ安全な薬剤であることが示されている.
著者
大村 剛史 川嵜 哲雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.37-46, 2006 (Released:2006-03-01)
参考文献数
43

塩酸エピナスチンは,1975年にドイツベーリンガーインゲルハイム社により合成されたアレルギー性疾患治療薬である.日本においては,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,湿疹・皮膚炎,皮膚掻痒症,痒疹,掻痒を伴う尋常性乾癬の治療薬として,1994年4月にアレジオン®錠10およびアレジオン®錠20として輸入承認を取得し,同年6月から販売している.その後,小児への適用のためドライシロップ製剤の開発が進められ,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,皮膚疾患(湿疹・皮膚炎,皮膚掻痒症)に伴う掻痒の適応症にて2005年1月にアレジオン®ドライシロップ1%として承認された.本薬は選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用を主作用とし,ロイコトリエンC4(LTC4),血小板活性化因子(PAF),セロトニン等に対する抗メディエーター作用と肥満細胞からのメディエーター(ヒスタミン,SRS-A(LTs),PAFなど)の遊離抑制作用を有しており,アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎などに効果を示すと考えられている.また,種々の病態モデル(皮膚炎モデル,皮膚掻痒モデルおよび鼻炎モデルなど)で効果を示すことが明らかとなっている.臨床試験においては,アレルギー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎患児において,ケトチフェンドライシロップとの非劣性が検証された.また,安全性にも特に問題はみられなかった.さらにアトピー性皮膚炎患児に12週間投与し,掻痒に対する有効性と安全性が確認された.また,中枢への作用が少ないことは非臨床ならびに臨床試験において明らかとなっている.以上のように,本剤の抗ヒスタミン作用は強力で,その作用発現は速く作用持続も長い小児用製剤として初めての1日1回の用法を持つドライシロップ製剤である.また,本剤は選択的ヒスタミンH1受容体作用を有するが,従来の抗ヒスタミン作用を有する小児用のドライシロップ剤とは異なり中枢移行性が少なく,中枢抑制作用の少ない特性を有する.
著者
関 成人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.368-373, 2007 (Released:2007-05-14)
参考文献数
13
被引用文献数
1

排尿障害は蓄尿(尿をためる)障害と排出(尿を出す)障害に大別される.蓄尿障害には排尿筋の収縮を抑制する薬物(抗コリン薬や平滑筋弛緩薬)あるいは膀胱出口部抵抗を増強する薬物(α1およびβ2受容体作動薬)が用いられ,排出障害には排尿筋収縮を増強する薬物(コリンエステラーゼ阻害薬など)ないし膀胱出口部抵抗を減弱させる薬物(α1遮断薬や抗男性ホルモン薬)が適用される.しかし閉塞性疾患(前立腺肥大症など)と合併する過活動膀胱に代表される,蓄尿および排出障害が混在する病態における抗コリン薬の有用性は十分確立されておらず,その使用は慎重に行う必要がある.排尿障害の薬物治療における問題点としては,排尿筋収縮力障害に対する有効な薬物に乏しいことと,有病率の高い過活動膀胱に対する第一選択薬である抗コリン薬の有害事象が挙げられ,抗コリン作用とは異なる作用機序を有する治療薬物の臨床応用や開発が進められている.
著者
池田 文昭
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.4, pp.339-344, 2003 (Released:2003-09-19)
参考文献数
15
被引用文献数
8 9

ミカファンギンナトリウム(以下,ミカファンギン,商品名:ファンガード)は,リポペプチド系抗真菌物質の誘導体合成研究により創出されたキャンディン系抗真菌薬である.ミカファンギンは,真菌細胞壁の主要構成成分である1,3-β-glucanの生合成を非競合的に阻害し,深在性真菌症の主要起因菌であるCandida属およびAspergillus属に対して優れた抗真菌活性を示した.その作用様式はCandida属に対して殺菌的であり,A. fumigatusに対しては菌糸先端部破裂による菌糸発育阻止作用であった.また,ミカファンギンはCandida属の主要菌種およびA. fumigatusによる各種マウス感染モデルにおいて,アゾール系抗真菌薬よりも優れ,アムホテリシンBとほぼ同等の感染防御効果を示した.国内における臨床試験ではアスペルギルス症に対して57.1%,カンジダ症に対して78.6%の総合臨床効果が得られた.副作用は17.9%に認められたが,その程度は軽度または中等度で,用量依存的に発現する副作用やミカファンギンに特徴的な重篤な副作用は認められなかった.これらの基礎および臨床試験成績からミカファンギンはAspergillus属およびCandida属による深在性真菌症に高い有効性を有し,かつ安全性に優れ,これら深在性真菌症の第一選択薬として幅広い病態の患者に使用できる薬剤と考えられる.
著者
山口 高史 植仲 和典 今岡 丈士
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.6, pp.469-477, 2008 (Released:2008-06-13)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

タダラフィル(シアリス®錠5 mg,10 mg,20 mg)は,強力かつ選択的なPDE5阻害作用を有する勃起不全(ED)治療薬である.In vitro試験系において,タダラフィルは強力なPDE5阻害作用を示したが,その他のPDEアイソザイムに対する作用は弱く,視覚機能への影響などの有害事象が発現する可能性が低いことが示唆された.タダラフィルはニトロプルシドナトリウム(SNP)によるヒト陰茎海綿体組織中のcGMP濃度上昇作用を増強させ,また,ヒト陰茎動脈あるいは陰茎海綿体平滑筋に対するSNP,アセチルコリンまたは電気刺激による弛緩作用を増強させた.以上の成績から,タダラフィルはそのPDE5阻害作用により,性的刺激によって産生されるNOによる平滑筋弛緩作用を増強させ,EDに対して治療効果をもたらすものと推察された.臨床薬理試験の結果から,タダラフィルの血漿中消失半減期は他のPDE5阻害薬より長く,また,薬物動態に対する明らかな食事の影響を受けないことが明らかにされた.臨床試験の結果から,性行為の前に必要に応じてタダラフィルを服用することで重症度や病因の異なるED症例の勃起機能が有意に改善することが立証され,忍容性および安全性も明らかにされた.反応時間を検討した臨床試験結果からタダラフィルは投与後30分以内に効果を発現すると考えられ,また投与後36時間まで有効性が認められている.
著者
泰地 和子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.171-179, 2004-09-01
被引用文献数
9 7

塩酸デクスメデトミジン(プレセデックス)は,強力かつ選択性の高い中枢性α<sub>2</sub>アドレナリン受容体作動薬である.α<sub>2</sub>アドレナリン受容体作動薬は,鎮静および鎮痛作用,抗不安作用,ストレスによる交感神経系亢進を緩和することによる血行動態の安定化作用等,広範な薬理作用を示す.本薬はラット大脳皮質における受容体親和性試験において,α<sub>2</sub>アドレナリン受容体に対して高い親和性と選択性を示し,α<sub>2</sub>受容体への親和性はα<sub>1</sub>受容体への親和性よりも約1300倍高かった.鎮静作用については,各種動物モデルで,用量依存的な自発運動量の低下,正向反射の消失,鎮静スコアの増加がみられた.鎮痛作用についても,各種動物モデルで,用量依存的な痛みからの逃避潜時延長作用がみられた.本薬の鎮静作用に関する作用部位は青斑核であると考えられ,本薬を青斑核内投与することにより,ほぼ全例で正向反射の消失が認められた.また,α<sub>2A</sub>受容体変異マウスにおける成績より,本薬の鎮静作用はα<sub>2A</sub>受容体サブタイプを介して発現することが示唆された.本薬は,ほとんどが肝代謝を受け,血中から速やかに消失する.日本において実施された第II/III相多施設共同プラセボ対照二重盲検ブリッジング試験では,胸部·上腹部の手術後,集中治療室に収容された患者を対象とし,有効性および安全性を検討した.鎮静作用については,挿管中に治療用量のプロポフォール(>50 mg)の追加投与を必要としなかった症例の割合を有効率として算出し,本薬投与群で有意に高かった(本薬群:90.9%,プラセボ群:44.6%).鎮痛作用については,挿管中にモルヒネの追加投与を必要としなかった症例の割合を有効率として算出し,本薬投与群で有意に高かった(本薬群:87.3%,プラセボ群:75.0%).有害事象については,本薬群で高血圧および低血圧が主なものであった.<br>
著者
藤田 秋一 置塩 豊 竹内 正吉 畑 文明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.170-178, 2004 (Released:2004-02-29)
参考文献数
25
被引用文献数
4 3

消化管には外来性に刺激がなくとも自発運動がみられる.近年,この自発運動のペースメーカー細胞としてカハールの介在細胞(interstitial cells of Cajal: ICC)が注目されてきた.ペースメーカー細胞としてmyenteric plexus層およびsubmuscular plexus層に分布するICCが考えられており,ICCで発生した活動電位は隣接する平滑筋細胞へと伝えられ,消化管の自発運動が引き起こされると考えられている.またコリン作動性神経あるいはnitrergic神経を介する平滑筋の収縮あるいは弛緩反応は,神経から一旦ICCにそのシグナルが伝わり,その後ICCからgap junctionを介して平滑筋細胞へとシグナル伝達が起こると考えられている.これらの知見はICCを欠如したミュータントマウス(W/WVおよびSl/Sld)を用いた検討により,主に食道,胃および小腸において明らかにされてきた.W/WVマウスでさらに詳細に検討することにより,小腸ではペースメーカー細胞としての働きを担うと考えられてきたmyenteric plexus層のICC-MYが,神経を介する収縮·弛緩反応に深く関わっていることが判明した.さらに伸展反射によって引き起こされる上行性収縮および下行性弛緩はW/WVマウスの小腸ではみられないことから,ICC-MYが蠕動反射に関与する神経経路のシグナル伝達に関わることが示唆された.一方,ICC-MYおよび輪走筋層内に分布するICC-IMが完全に消失しているW/WVマウスの遠位結腸においては,伸展刺激などによる神経を介する収縮·弛緩反応はwild typeマウスと同様にみられた.従って遠位結腸においては,神経から平滑筋細胞への神経伝達にICC-MYおよびICC-IMが関与することはなさそうである.消化管運動調節へのICCの関与の度合い,あるいは関与の様式は消化管の部位により異なると考えられる.
著者
兼松 隆 照沼 美穂 後藤 英文 倉谷 顕子 平田 雅人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.2, pp.105-112, 2004 (Released:2004-01-23)
参考文献数
52

イオンチャネル内蔵型のGABAA受容体は,γ-アミノ酪酸(GABA)をトランスミッターとし,脳における抑制性神経伝達をつかさどる主要な受容体である.この受容体の異常は,不眠·不安·緊張·けいれん·てんかんなどの様々な病態を引き起こすことが知られ,GABAA受容体の正常な働きは,複雑な脳·精神機能を形成する分子的基盤の重要な一角をなす.興奮性神経伝達機構の解析が分子レベルで進む中,抑制性神経伝達機構の解析は後手にまわっている感があった.しかし近年,GABAA受容体の相互作用分子が次々と発見され,それらの分子をとおしてGABAA受容体の機能制御機構を解析することで,その全体像が明らかになりつつある.本総説は,現在明らかになっているGABAA受容体の構築から分解系に至る分子メカニズムを「GABAA受容体の一生とそれを調節する分子達」と題してまとめたものである.我々は,新規イノシトール1,4,5-三リン酸結合性タンパク質(PRIP-1)研究を進める中,PRIP-1に相互作用する2つの分子を同定した.その一つがGABARAP(GABAA受容体の膜輸送に関係があるとされる分子)であったことから,PRIP-1欠損マウスを作製しGABAシグナリングの解析を行った.するとこのマウスは,GABAシグナリングに変調をきたした.また,PRIP-1はプロテインホスファターゼであるPP-1に結合し,この酵素活性を負に調節する.最近,PRIP-1がGABAA受容体自身のリン酸化/脱リン酸化反応をPP-1の酵素活性を制御することで調節することをみいだした.あわせてここで紹介する.今後,抑制性神経伝達機構解明研究が分子レベルで進めば,複雑な脳·精神機構の理解が深まり,多くの脳·精神疾患の新しい治療法や新薬の開発につながることが期待できる.
著者
佐々木 康夫 長井 紀子 沖村 勉 山本 格
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.1-7, 1987 (Released:2007-02-23)
参考文献数
24
被引用文献数
6 3

シアニン系感光色素であるlumin(4,4'-{3-[2(1-ethyl-4-(1-H)quinolidene)ethylidene]}propenylene[bis(1-ethyl quinolinium iodide)])を用いて,種々のアレルギー反応に及ぼす影響を検討し,以下の成績を得た.1)luminはIgE抗体産生を軽度に抑制したが,IgMおよびIgG抗体産生には何ら影響を及ぼさなかった.2)luminはラットの481時間homologous PCAを軽度に抑制し,in vitroの抗原抗体反応によるhistamine(His)遊離に対しても若干の抑制作用を示した.3)luminは遅延型過敏(DTH)反応においてcyclophosphamide(CY)によるDTH反応の亢進を有意に抑制した.以上の結果より,luminは免疫薬理作用を介することにより抗アレルギー作用を示すことが示唆された.
著者
丹羽 俊朗 本田 真司 白川 清治 今村 靖 大崎 定行 高木 明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.2, pp.93-103, 2006 (Released:2006-08-31)
参考文献数
144
被引用文献数
2 2

選択的セロトニン再取り込み阻害薬フルボキサミンの薬物相互作用に関するin vitro阻害試験および臨床試験の報告を総説としてまとめた.まず,各cytochrome P450(CYP)の代表的な基質であることが知られている薬物に対するin vitro阻害試験および臨床試験結果を整理した.In vitro阻害試験において,フルボキサミンはCYP2A6,CYP2C9,CYP2D6,CYP2E1およびCYP3A4に比べCYP1A2およびCYP2C19を強く阻害し,臨床試験での阻害効果はCYP1A2>CYP2C19>CYP3A4>CYP2C9>CYP2D6(阻害無し)の順である.次に,国内にてフルボキサミンと併用される約80種の薬物(特に血糖降下薬および高血圧治療薬)とフルボキサミンとの薬物相互作用のin vitro阻害試験および臨床試験の報告を調査したが,いずれも一部の薬物で検討されているのみであった.そこで,それぞれの薬物の代謝に関与する薬物代謝酵素および尿中未変化体排泄率を調査したが,主にフルボキサミンにより阻害されるCYP(特にCYP1A2およびCYP2C19)で代謝される薬物ではフルボキサミンとの併用の際には注意を要し,代謝を受けにくく尿中未変化体排泄率が高い薬物ではフルボキサミンによる薬物相互作用を受けにくいことが推察される.したがって,フルボキサミンとの併用治療を行う際には,併用薬の薬物動態を考慮し,CYP阻害による薬物相互作用を起こしにくい併用薬を選択する必要があると考えられる.
著者
矢賀部 隆史 宮下 達也 吉田 和敬 稲熊 隆博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.5, pp.256-261, 2013 (Released:2013-05-10)
参考文献数
60
被引用文献数
2 1

野菜や果物は栄養学上「体の調子を整えるもの」として,ビタミン,ミネラルの重要な供給源であるが,これら栄養成分の他にも,ファイトケミカルと呼ばれる「健康によい影響を与える」化合物が微量含まれている.中でも,天然の色素であるカロテノイドは,経口摂取すると吸収,運搬され,様々な組織に蓄積する.カロテノイドは,そのプロビタミンAとしての作用や活性酸素を消去する抗酸化作用から,多くの疾病の予防や改善への効果が期待されてきた.本総説では,野菜や果物に含まれている主なカロテノイドである,リコピン,β-カロテン,ルテイン,ゼアキサンチン,β-クリプトキサンチン,カプサンチンについて,それぞれ特にエビデンスが蓄積し,予防や改善が確かになりつつある疾病への効果について,最近の疫学研究の成果を中心に紹介する.
著者
佐藤 廣康 西田 清一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.3, pp.126-129, 2015 (Released:2015-09-10)
参考文献数
11

シノメニンは漢方生薬,防已の主要含有フィトケミカルである.シノメニンの主たる心循環作用は血管弛緩作用であり,血管内皮依存性と血管平滑筋への複雑な作用機序に起因している.木防已湯と防已含有シノメニン単独の血管弛緩作用を比較すると,シノメニンは老齢ラットに対して弛緩作用が減弱するが,木防已湯は老齢ラットでもその弛緩作用を保持した.したがって,木防已湯に含有する多数の生薬成分,含有フィトケミカルによる複雑な相互作用によって,木防已湯は薬理作用の加齢変化を受けにくくなっていると推測された.一方,シノメニンは心室筋膜イオンチャネルにも作用し,抗不整脈作用を示し,心筋保護作用を表すことが解明された.よって,木防已湯エキス剤によって循環器疾患を改善する可能性が示唆された.すでに漢方薬を用いた診療は広い領域に応用されており,そのエビデンスも少しずつ構築されつつあるが,循環器領域における漢方薬,木防已湯の臨床適用に関する研究の発展は,今後一層期待される.