著者
大谷 信介
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.278-294, 2015 (Released:2016-09-30)
参考文献数
26

社会学会では, 2003年に社会調査士制度を立ち上げ2008年に社会調査協会として法人化するなど, 社会調査の能力を備えた人材育成と社会調査の科学的水準の向上と普及を図ってきた. しかしそうした努力にもかかわらず, なかなか政府や地方自治体の政策立案過程において, 「社会調査」に関する社会学領域の研究蓄積や人材が活用されてこなかったという実態が存在してきた. その大きな原因として, 統計法に基づく統計調査や統計行政の制度的枠組みを踏まえた社会学領域からの問題提起が弱かった点を指摘することが可能である. 戦後日本の行政施策の企画・立案の基礎資料は, 統計調査と統計行政によって収集されてきた. こうした統計行政の仕組みは, 戦後復興に貢献するとともに, 長い間行政機関が実施する統計調査や世論調査に多大な影響を与えてきたのである. しかし, 戦後70年の社会・経済・国民生活の激変の中で, これまでの政府統計だけで政策立案をすることが困難となってきている現実も出現してきている.本稿では, これまでの国や地方自治体での政策立案過程において, 統計調査がどのように使われ, どのような問題を抱えていたかを整理検討することによって, 今後有効な「データに基づく政策立案」システムを構築していくうえで, 社会学領域からどのような問題提起をしていけばよいのかについて考察する.
著者
柄本 三代子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.521-540, 2015 (Released:2016-03-31)
参考文献数
25

本稿は, 東日本大震災後多くの人びとの関心を引きつけながら専門家の評価・判断が依然として分かれたままの, 福島第一原発事故後の放射能汚染による被ばくのリスクと不安について, わかりやすさが求められるテレビ報道において, いかに説明され語られているかを考察した.たんに福島第一原発事故後の被ばくのみを分析対象とするのではなく, 利用可能なアーカイブを駆使し, 広島・長崎原爆やチェルノブイリ原発事故をめぐる報道も分析対象とした. これにより, 被ばくの不安とリスクが語られる際の共通性抽出を目的とした. データは視聴可能なものの中から1986年から2014年までに放送された番組を対象とした. 科学的リアリティの構築に「素人の語り」がどのように寄与しているのかという点に着目した.数十年にわたる被ばくの語りを対象化することにより, 現在の被ばくの影響や不安についての関心が, 専門家によってはあいまいでわかりにくい説明がなされたまま, 未来へと先送りにされていく事態について明らかにした.専門家による言説だけでなく素人の言説も考察対象とすることにより, わかりやすさが求められるテレビジョンの中で, 科学的不確実性を多分にはらむ被ばくが語られる際には, 素人によってわかりやすい説明がなされるだけでなく, わかりにくい専門家の話を素人が支えることも必要とされている点についても明らかにした.
著者
西阪 仰
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.369-383,400, 1985-12-31 (Released:2009-11-11)
参考文献数
24

一九七一年にハーバマースとルーマンの間でたたかわされた論争で両者は、 (1) 意味が社会学の根本概念であること、および (2) 意味概念にはすでに諸主体の非同一性が含意されていること、この二点を共通の出発点としていた。ここから生じてくる問題は、 (a) 意味が常にすでに非同一的諸主体を前提とするとしたうえで、なおかつ意味を根元的に (すなわち、すでに有意味な何ものかをあらかじめすべり込ませておくことなにし) 把握することができるかということ、また (b) そのような意味概念をもとに、有意味な行為の構成、さらに行為が織りなす世界の布置の形成はどのように考えることができるかということ、これである。本稿は、まず最初に単独「主体」による意味の決定が不可能であることを証明し、次いでこれに基づいて、ハーバマースとルーマンの各論点を整理する。そのなかで (a) 行為が常に実践として公的におこなわれること、および (b) 有意味な世界は行為が連鎖することのうちで成立することを指摘し、そこから、 (i) 両者がそれぞれ強調する妥当性要求の普遍性 (ハーバマース) と規定された世界の布置の特殊性 (ルーマン) とが同値であること、さらに (ii) この同値性に注目することによってのみ行為および行為者の把握が可能となることを示す。
著者
宮坂 靖子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.589-603, 2013 (Released:2015-03-31)
参考文献数
21

本稿の目的は, 第1に, 1990年代以降, 中国の都市中間層で増加している専業主婦の実態を把握し, 中国の専業主婦規範の特徴を明らかにすることである. そして, 日本と中国の専業主婦規範の差異がどのようなメカニズムを通して形成されているのかを考察する. 考察には, 2014年10~11月にかけて, 遼寧省大連市内において9名の専業主婦に対して実施したインタビュー調査のデータを用いる.本稿で明らかになったことの第1は, 中国の都市中間層で生じている専業主婦化は「専業母」化であり, 調査対象者たちは子育て期は子育てに専念するが, 子育て後に再就職することを望んでいた. 第2に, 調査対象者たちは, 子育て期に「専業母」になることを肯定していたが, ただし母親が単独で育児を担当するのではなく, 親族からの育児サポート, 市場の家政サービスを活用しながら, 母親役割を遂行していた.このような「専業母」規範は日本の3歳児神話と大きく異なっており, 日中の「専業母」規範の差異は, 育児や家事などのケア行為のどの部分を誰が遂行し, その分節化された行為にどのような意味を付与するかによりもたらされる. 「市場化をともなった情緒化」と「市場化なき情緒化」のいずれのメカニズムを選択するかはその1つの分岐点となる. 「専業母」化という同じ現象であっても, どのような育児行為を愛情の表出とみなすかという情緒規範は文化的・社会的により異なる.
著者
寺地 幹人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.351-359, 2014 (Released:2015-12-31)
参考文献数
5

本稿は, 2014年7月に横浜で開催された第18回世界社会学会議のサイドイベントであるEast Asian Junior Sociologists Forum (EAJSF) の企画・運営の様子を報告し, この事例をもとに, 若手研究者が国際的な学術イベントの企画・運営を担う際のポイントを論じている.EAJSFにおいては, 企画・運営委員が少人数で, かつ専門分野などの点で同質性や関係の近さがあったことの利点が, 結果的に大きかった. しかし, 仮にある程度のメンバー内の同質性や近さを前提にしなければ今回のような企画・運営が難しいとすれば, 次の2つが課題として考えられる. 第1に, どのような同質性や近さが相対的に, 国際的な学術イベントの企画・運営に馴染みがよいのか, 特徴を探ること. 第2に, 活動をより詳細な業務レベルで検証し, 相対的に同質性を前提とせずとも可能な活動を整理することで, 企画・運営の関わり方のバリエーションを提示し, 関心のある人が適切な関わり方で分業できるようにすること.この2つに対応することを通じて, 国際的な学術イベントの企画・運営のノウハウをさらに学会が蓄積し, 関心のある若手研究者が関わる機会を開くことが, 世界社会学会議日本開催後の課題の一つと考えられる.
著者
盛山 和夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.172-187, 2015

<p>少子高齢化の中で社会保障制度はさまざまな見直しを迫られており, 社会保障改革を主張する声は多い. しかしそのほとんどは主流派経済学に依拠した「社会保障の削減」にすぎない. そこでは「社会保障費の増大」は「国民経済への負担を増大させる」とのまことしやかな (実際にはまったくの虚偽でしかない) 論理に基づいて, 財政難を理由に公費支出水準の削減と受益者負担の増大とが叫ばれるばかりで, 「福祉社会の理念」は完全に欠落している. 本来, 社会保障制度をどう改革するかの議論は, 「あるべき福祉社会像」に基づいて展開されるべきであり, それは社会学が取り組むべき重要な課題である, ところが, 今日の社会学には, 財政難の論理を適切に反駁したうえで社会保障制度の改革構想を具体的に展開するという学問的営為が見られない. せいぜいのところ「社会的包摂」や「連帯」や「脱生産主義」などの抽象的理念が語られるだけである. これには (1) 社会学がこれまで経済学の論理と直接対峙することを回避し, マクロ国民経済的な視点の鍛錬を怠ってきたこと, (2) 「理念を語る際には, その実現条件は無視してよい」という空想的理念主義が知的鍛錬を避ける免罪符としてあったこと, そして (3) それらの根底に, 新旧の経験主義的な社会学自己像がある. 本稿は, そうした社会学の現状を批判的に考察し, 社会学がどのような道筋で社会保障改革の問題に取り組むべきかを明らかにする.</p>
著者
田中 惣五郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.16-29, 1952

In the consolidation of the modern state, advanced sections of the community often lead other, less-advanced ones and sometimes enforce consolidation by conquest. In Japan, the four feudal clans of Satsuma, Choshu, Tosa and Higo formed a state through a secure consolidation with the emperor system, and thus brought into being a nation ruled by a feudal clique.
著者
谷本 奈穂
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.418-433, 2005-03-31

本稿では複数ある「ものの見方=視覚モード」を整理する.<BR>「言葉」をモデルにして対象に潜む意味や物語やイデオロギーなるものを「読解」するというモードや, 「芸術作品」をモデルにして対象と (論理を媒介にしない) 「直接的交流」をするモードが考えられる.<BR>しかし現代においては, メディア (広告ポスター, テレビ, マンガ, インターネットの動画) をモデルにした視覚モードもある.本稿ではそのモードを〈イメージ〉の生成と名づけた.<BR>このモードは「じっくり鑑賞する」というより「ちらっと・ぼんやり散見する」点, 対象に表層と深層があるとするなら「深層」ではなくて「表層」に焦点を当てる点に特徴がある.<BR>また〈イメージ〉の生成の登場は, 人が魅惑に対してむしろ醒めて麻痺したような態度を取るようになったことを意味している.
著者
好井 裕明
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.711-726, 2013 (Released:2015-03-31)
参考文献数
86
著者
青井 和夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.33-57,166, 1955-10-30 (Released:2009-11-11)

(1) In the classical theory of sociological experiment it was customarily believed thet the experimenter must hold all (independent) variables constant except one-either directly (by means of the Method of Removal, the Constant Method the Screening Method, the Counter-balanced Method, or Systematic Randomization) or indirectly (by means of the Matched Group Method). The 'rule of the single variable' was formulated before moreef ficient statistical methods and experimental designs had been developed. Theclassical experimental logic is only applicable when the complete identification of all factors is possible, when there is complete arithmetical correspondence between cause and effect, and when no interaction between the factors exists ; but in the complex social reality these conditions are never in fact satisfied. Therefore, modern experiments, with the statistical tools now available, handle several independent variables within the same design and also include as many dependent variables as seem necessary. One experimental design of this sort is the 'factorial design'. In this connection, the 'pure case' method advocated by K. Lewin and F. S. Chapin is logically defective.(2) Sociological experiments can be classified according to various criteria. For example E. Greenwood used three criteria ; namely, artificiality of the situation, simultaneity of the comparison and direction of relationship, and produced the following classification : (a) The Projective successional experiment.(b) The Projective simultaneous experiment.(c) The ex-post-facto cause to effect experiment.(d) The ex-post-facto effect to cause experiment.However, the most significant dichotomy of experiments would seem to be the classification into 'field experiment' and 'laboratory experiment'. This because of the importance of the 'strategy of social research' and the emphasis which must be placed on the supplemental relationship between field survey, field experiment, laboratory experiment and the clinical analysis of cases. Experimental methods must be viewed in the context of various other social research techniques. Otherwise they are doomed to futility.(3) However, traditional sociological experiments have at the same time many other weak points. In the first place, they have mostly handled uninstitutionalized small groups and have lost couch with macroscopic studies of societies. In experiments with small groups it is necessary to examine the cultural setting of the experimental situation which places a limitation on the general validity of the experimental conclusion, and at the same time to elaborate methods of transposing the essential structure of social reality into the experimental situation. Secondly, since experimentation with social phenomena is itself a historical event, we must examine the nature of experiments from the viewpoint of the sociology of knowledge. Thirdly, the spontaneity of the subjects is a necessary conditions for succesful sociological experimentation. Only experiments which call for the spontaneous response of the subject, experiments which are conducted with a view to the subject's welfare, experiments which gain the cooperation of the subject, can hope to succeed. Fourthly, in order to carry out large-scale social experiments, the experimenter must have wide control over social phenomena in order to make possible the setting up of experimental conditions. Except in the classless planned society these conditions are unlikely to be satisfied.
著者
富永 健一
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.325-328, 1998-09-30 (Released:2009-10-19)
著者
高原 基彰
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.206-215, 2010-09-30 (Released:2012-03-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1