著者
中井 勇 光枝 和夫 大畠 誠一
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.1-18, 1995-12-25

本論文はマツ属の種間交雑の可能性から, 種間での生殖的隔離と地理的隔離を考慮して類縁関係を再検討し, さらに, 近年わが国におけるマツ枯れ被害対策と関連して, 創出されたF_1雑種の抵抗性やその生育状況について論議した。1. 種間交雑はマツ属の分類学上の亜節内では成功例が多く, 亜節間での成功例は僅かで, 種の生殖的隔離と分類学上の位置付けはほぼ符合した。しかし, 同じ亜節内において交雑の失敗例があり, 地理的な隔離等を考慮するといくつかの種群に区分することが可能であった。Sylvestres亜節は, アメリカ東部に分布する種とヨーロッパ地域に分布する一部の種群, 地中海沿岸地域に分布する晩成球果種群, 東アジア地域に分布する種群およびP. merkusii (1種) の4グループに細分できた。Australesでは, 成熟球果が閉果 (晩成球果) の種群と開果の種群に区分され, Contortaeでは地理的に隔離する2種群, さらにOocarpaeではメキシコ地域とアメリカ西部地域の2種群に区分できる。これらの区分は種分化と密接に関係するものと理解された。2. 上賀茂試験地で創出された雑種は, P. thunbergiiを雌性親とした種間で8種, P. densifloraとの種間で1種, P. taeda × P. rigidaの両面交雑の2種, P. viginianaとの種間で1種, P. muricataとの種間で2種の合計14種である。これらの雑種の中でマツ枯れ被害に対する抵抗性種と考えられるものは, P. taeda × P. rigidaの両面交雑種及びP. virginiana × P. clausaがあげられる。わが国の在来種との間ではP. thunbergii × P. tabulaeformisが抵抗性を示しており今後の生育が期待される。
著者
渡辺 弘之 二村 一男
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-15, 1971-03-25

京都大学芦生演習林において, 82種の鳥類が記録された。線センサス法によっての個体数調査を3つのコースで, 1969年および1970年の5月に行なったが, 種類数は0. 3 - 1. 3/ha, 個体数は0. 3 - 2. 2/haであった。鳥類の摂食物調査を20種25例について行なったが, ハギマシコ, カヤクグリ, カケス, ヤマドリ, カワガラスのそ嚢・砂嚢から, 砂粒が検出された。
著者
古野 東洲
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.16-30, 1982-11-20

マツノザイセンチュウに起因するクロマツ, アカマツの集団枯損は, 関東以西の西日本に大きな被害をあたえ, さらに拡大している。また, わが国に植えられている外国産マツ属にも被害をあたえている。本報告は, 主として, 京都大学農学部附属演習林上賀茂, 白浜および徳山の3試験地に植えられている外国産マツ属のマツノザイセンチュウによる枯損を調査した結果をとりまとめたものである。枯損マツ属は, P. thunb. × P. masso. のF_1雑種を含めて20種に達し (表-2 - 6), 一般に, マツノザイセンチユウに対して抵抗性があるとみなされている P. taeda, P. elliottii, P. palustris, P. massonianaの枯損も観察された。枯死マツの枯死年の樹高生長は, アカマツ・クロマツ型の伸長をするものでは, 大部分が正常であったが, テーダ・スラッシュマツ型のものは, 前年の伸長量に比べてすくなかった。直径生長も前年生長量よりすくなく, マツノマダラカミキリの次世代幼虫が繁殖している幹には, 春材のみで秋材がみられなく, カミキリが繁殖していない幹には秋材が形成されていた。マツノザイセンチユウに対するマツ属の感受性 (抵抗性) を, 前報の接種試験と本調査の結果から, 前報で未分類であった樹種を加えて4段階lこ分類すると表-7のようになった。
著者
赤井 龍男
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.34-47, 1975-12-13

尾鷲地方は一般に急峻な地形, 多雨という自然的条件のほか, 密植短伐期皆伐とひんぱんな間伐にともなう下刈りなどの施業的条件のため, 地力の低下が著しく, またヒノキの天然更新もきわめて困難な地域である。しかし林分によってはヒノキ稚樹の発生, 成立がみられるので, 比較的更新の良好な7林分を対象として, 種子の散布から稚樹の成立までの過程を1972年8月から3ヵ年間調査, 解析し, 特にこの地方の更新の困難性について検討してみた。種子の結実量には豊凶の差があり, またその散布量も地形や林分の状態によって不均一になるが, 並作以上の結実量があれば散布種子数と稚樹の発生, 成立本数との間にはほとんど相関がない。したがって天然更新の困難な理由は種子の生産, 散布状態ではなく, 種子の発芽後に問題があるように思われた。播種による追跡調査の結果, 多雨なこの地方では樹冠から大粒の雨滴によって種子がはねとばされ, 発芽直後の稚苗が掘り起されやすいことがわかった。しかし落葉枝や下層植生の適当な被覆はこれらの障害を防ぐ効果があった。一方, 立枯病害や虫害はそれほど多くなかった。また急斜地においては種子や稚苗の流失が多く, ほとんど定着できないようであった。稚樹の枯死は一般に10数cm以下の小さいものに多い。成立稚樹数は毎年の稚樹の発生と枯死, 消失の収支によってきまるが, 下層植生が比較的少ないところでは増加し, 繁茂するところでは減少する傾向がみられる。なお当地方では数年ごとに繰り返される下刈りによってほとんどの稚樹が刈り払われてしまうが, これが更新を困難にしている一つの理由である。一般に光条件にめぐまれた林縁付近ほど林内より稚樹の成立数が多く平均高も大きいが, その差は年とともにますます広がるようであった。また林縁付近では大きい稚樹ほど生長率は高く, 年に50 - 80%ほど生長するものも少なくないが, 林内では全般に生長率は低く平均20%前後で, 特に下層植生の存在するところの生長は悪いようであった。したがって尾鷲地方でも急斜地以外では林冠と下層植生を適当にコントロールすればヒノキ稚樹の更新は可能であろう。
著者
近藤 公夫
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.219-248, 1965-11-15

この研究は Immediate recreational spaceと見なされ, 都市生活者の休養生活に最も関係が深い都市小緑地, 特に児童公園, の利用実態を考察するものである。この調査は京都市内の児童公園約20に対し, '53年 (昭和28年) から断続して '64年 (昭和39年) まで行ない, この報告迄に次ぎの結果を得た。利用者の年齢構成は学齢前が35乃至40%, 小中学生を45乃至50%, 青年を5%, 壮年を10%程度と認められ, 利用者数では都市部の住居地区がha当り在園者として150人以上, 都市周辺の緑住混合地区が公園面積のやや大きいものを含んで同50人以下, と云う例が見られ, 普遍的な数値としては公園の利用密度をha当り最大100人程度と結論し得る。利用実態自体については上記年齢層別及び季節別に観察した結果, 学齢前では男女間に差がなく冬季・夏季に施設利用の遊びを中心とする利用減があり, 学齢層男子は夏季にのみ自由運動の減少があり, 同女子は冬季に施設利用の遊びの, 夏季に自由運動の減少があることを認め, その在園時間は学齢前で10乃至40分, 学齢層で20乃至60分と云う結果を得, 児童公園利用の平均人を想定すれば揺動施設利用が25%, 野球が15%, 静養その他が35%程度, また登攀施設・砂場・球技などが各5%, その他の遊戯が10%として, 5%括約値が得られる。なお, 知見の1部として利用者の日誘致傾向を見ると, 100m圏から学齢前の2人に1人, 学齢層の3人に1人であり, 200m帯から共に5人に1人と云う結果となっている。
著者
藤井 禧雄 瀧本 義彦
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.190-197, 1984-11-30

チェーンソーの振動・騒音による神経的負荷及び鉄アレイ把持による静的重量負荷を与えた場合の作業者の生理的応答 (心電図, 表面筋電図) をFMテレメー夕方式にて計測した。そして, 各因子聞の回帰式及び自己-, 相互相関関数やスペクトルを計算し, 上述の負荷と生理的応答との関係を定量的に検討した。その結果, 心拍数, 筋電図積分値と静的重量負荷とはほぼ直線的関係があること, また, 心拍数は振動, 騒音の変動に良く応答するものであることが明らかになり, これ等を静的筋負担や神経的負担の指標として利用できることを示した。
著者
野嶋 政和 吉田 鐡也
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.65, pp.298-309, 1993-12-24

郊外住宅地の形成に思想的に連なる「田園都市論」は当初内務省地方局を中心に受容された。「田園都市論」は地方改良運動との関係で受容されたのであるが, それは明確な目的意識の下で受容されたのではなかった。しかし, 当時の社会状況に対応しようとする感化救済事業と接合されることを通して, 「田園都市論」は積極的な意義を与えられることになった。感化救済事業では, 従来は住宅に関する問題は救貧・防貧対策として考えられていたのだが, 資本主義の生産関係における労働力再生産過程を支える機能空間として「住」に関わる空間が理解されるようになったのである。また, この空間は国民統合というもうひとつの課題を実現するための「社会」を創出していく空間としても機能することを求められるに至った。「田園都市論」は, 分節化されかつ統合された社会関係を支え, 発展させていく空間論へと展開された。
著者
Tamai Shigenobu
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.52, pp.22-31, 1980-12-25

樹木の生長に及ぼす密度効果について立木密度の異なった4プロットで調べた。高密度区の樹木の直径生長率と樹高生長率は低密度区のそれより早くにぶった。D_o_2Hと樹木の各部分の重さとの相対生長関係は, プロット間で差がみられなかった。C-D効果は樹高生長より直径生長にはっきりあらわれた。高密度区の樹高の順位変動は低密度区に比べ著しかった。
著者
Fujita Minoru Harada Hiroshi
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.52, pp.216-220, 1980-12-25

一般に市販されているいわゆる瞬間接着剤のアロンアルファー201を用いて, 非常に簡便かつ迅速な樹脂包埋法を開発した。また通常のミクロトーム操作にも応用できる切片の"裏打ち"法を考案した。包埋法はFig 1に示すように, "(1) 乾燥した試片を試料台の上に置く。(2) アロンァルファー201を滴下して試片中に樹脂を浸透させる。(3) 余剰のアロンアルファーを濾紙で吸い取り約1時間放置する。"の手順で完了し, この包埋試片から0. 5 - 5μm厚さの切片がガラスナイフを用いて容易に切り出せる。包埋樹脂はアセトンで除去されるので, 切片は必要に応じて脱包埋できる。また切片作製後の試片をアセトンで脱包埋すると, 走査電顕観察に適した断面が得られる。この包埋法は木材はもちろん樹皮, 紙, 合板などの乾燥した多孔性の試料に適用できる。"裏打ち"法は湿潤試料に有効で, Fig 2に示すように, "(1) 試片をスラィディングミクロトームに装着し, 通常のミクロトーム操作で試料表面を平滑にする。(2) アロンアルファー201を滴下し余剰の液を濾紙で吸いとる。約1分後にはアロンアルファーは試料表面に固着する。(3) 5 - 20μm厚さの切片を切り出す。"以後 (2) (3) の操作をくり返す。切片はアロンアルファー膜で裏打ちされているので切削時の損傷が少なく, 軟弱な組織や, バラバラになりやすい組織の薄切に有効である。なお, アロンァルファーの裏打ち膜は必要に応じてアセトンで除去することができる。
著者
白幡 洋三郎
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.190-208, 1982-11-20

横浜公園造成案として, 明治5年, 6年, 7年の各年に神奈川県の手で作成された「費用調書」が現存する。このうち, 明治5年, 6年の二つには, 詳細な植栽案が付されている。これに従って公園の植栽が行なわれはしなかったが, 公園造成に対する明治初年当時の関係者の姿勢をうかがうことができる貴重な資料であると言うことができる。どのような知識をもった人びとが, 当時この植栽案作成にかかわったのか。その人びとのいだいた公園観は, どのようなものか。それらを考察するため, この植栽案を, 費用, 植物数, 植物名などから検討した。その結果, 植栽案は神奈川県名で作成されているが, 実際の植物の選釈には園芸・植木業にたずさわる者がかかわったことが推察できる。また, 最初日本側当事者の強くいだいた公園イメージは, 花木と草花が豊かに植えられた花壇と芝生で構成される庭であったと思われる。そこにみられるのは, 欧米に生まれた公園が, 独自の築庭術と高度な園芸を有する風土に移しうえられたようとした時の, 最初の公園理解であろう。資料として, 三つの「費用調書」および植栽案全文を掲げ, 特に植物名には, 現在の植物略称, 学名等を判明するかぎり書き添え, 注を付した。
著者
二井 一禎 古野 東洲
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.23-36, 1979-12-20

西南日本の海岸線を中心に, 日本の各地でマツ林に激しい被害をもたらしているマツノザイセンチュウに対するマツ属各種間の抵抗性の違いを調査するために1977, 1978の両年に, 京都大学農学部附属演習林上賀茂試験地および白浜試験地に植栽されているマツ属30種, のべ約600本に対してマツノザイセンチュウの接種試験を行なった。接種にあたっては1本の供試木あたり2, 000頭のマツノザイセンチュウを接種したが, さらに, P. strobus, P. taedaには接種密度を変えて, 1本につき2, 000頭ずつ3ヶ所に計6, 000頭を接種した。接種後2および5週目に早期症状の調査のため樹脂浸出量を測定した。その後, 経時的に1年間供試木の外見的異常を観察し, しかる後に供試木からの線虫の再分離を試みた。これらの調査・観察の結果の大要は次のようである。(1) マツノザイセンチュウを接種された木の樹脂量はその後の外見的症状の有無とは無関係に減少する傾向が見られた。(2) 外見的病徴にもとづく異常発生率の供試樹種間における違いは, 育種学的知見にもとづいて築きあげられた Critchfield & Little の分類体系で比較的うまく類別できる。すなわち, Australes 亜節に含まれる種は最も抵抗性が強く, Contortae 亜節の種がこれに準じる。Ponderosae, Oocarpae 両亜節の種はいずれも感受性であり, 日本産のクロマツやアカマツが含まれる Sylvestres 亜節の中には強度の感受性樹種から抵抗性樹種まで, さまざまな反応が見られた。また Strobus 亜属の各種の異常発生率は高かったが, いくつかの種では Pinus 亜属の感受性反応と異なり異常を部分で食い止め, 全体としては健全性を保ち枯れない可能性をうかがわせる反応が見られた。(3) 接種密度が高くなると抵抗性の P. taeda でも異常発生率が高まり, これらの樹種の抵抗性が本質的には絶対的なものではないことを示唆した。(4) 1977年度の接種試験で生き残った個体を1978年度, 再度接種に供したところ, いくらかの種で, それらの異常発生率は新規に接種した場合の異常発生率より低い傾向がうかがわれた。これはそれらの種内に抵抗性の個体間差が存在することを示唆している。(5) 供試木から接種一年後に線虫を再分離したところ, 異常を発現し, 枯死したような木や部位からは普遍的にマツノザイセンチュウが分離された。一方健全なまま生存した個体や部位からはマツノザイセンチュウは分離されず, マツ属内に見られる抵抗性と樹体内での線虫の増殖の密接な関係が明らかになった。
著者
大畠 誠一
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.36-49, 1993-12-24

マツ属各種の系統進化上の位置づけを行う第一段階として, 種群単位での位置づけを試みた。方法としては, 各種の地理分布圏を重ね合わせ, 系統分類群ごとに等種数分布図を作成し, 種群の最小単位であるマツ亜節の地理分布圏の特徴と分布の様相を調べた。全北区の広分布要素のひとつとされるマツ属の分布を詳しく調べると, 亜節分布の様相は分類群によって異なる様々な結果を示した。他方, 種群の歴史的変化過程が, 発生, 変異して繁栄の段階をむかえ, ついには滅亡へと進む自己運動として考え, それらの地理的分布の様相が発展的固有, 広分布, 不連続分布, 遺存的固有の様相を示すものとすれば, 個々の種群の分布の様相を調べることによって, それぞれの種群の分化後の位置づけが可能となる。この仮定のもとに現生のマツ属各種群を位置づけると表2となった。この表により, マツ属各グループの系統進化の概要が位置づけられる。近縁の多数種が限定された場所に分布する特徴と種群内の天然雑種の形成率の大きさから, マツ属のうちではSubsect. Oocarpae, Subsect. Ponderosae, Subsect. Australes, 地中海沿岸のSubsect. Sylvestres等が, 種分化後の時間が短く, 新しいグループであると推測された。これらの種群の分布域の北側には山岳域がある。一方, 第三紀以後マツ属全体の分布域が南下したことが化石マツから明かにされている。そこで, これら種群の分化は第三紀以後に現在の分布圏の北部にある山岳地において, それらの形成に伴って種分化が発生したと推測した。さらに, これらの種群の示す同所的, 集中的分布は, 第四紀の気温変動によって形成されたと推測した。
著者
佐藤 乾 藤田 稔 佐伯 浩
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.318-325, 1990-12-20

熟成したモルトウイスキーの香味は, 樽材の性質, とくに, その組織や抽出物に負うことろが大きいと言われている。本報告では, モルトウイスキーの樽材中での分布を明らかにし, 樽材の組織とモルトウイスキーの浸透性を検討した。また樽材中のアルコール抽出物の分布も調べた。その結果, モルトウイスキーの樽材中での含有量は内表面側から外表面側に向かって低下するが, その全体の量は大変大きなものであり, モルトの総欠減量の半量にも達することが明らかとなった。樽材中のアルコール抽出物の割合は内表面側で低く, 中ほどで高い分布を持ち, 内表面側のそれはモルトウイスキー中に溶解されたことを示している。モルトウイスキーの浸透深さと年輪幅あるいは追柾角度との間に, 一定の関係は見られなかった。
著者
中村 一
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.190-197, 1965-11-15

造園計画の哲学的側面は2つの問題に関して顕著にあらわれる。第1に造園が他の物的諸計画 (建築, 土木など) と協同して有機的生活環境を作り上げるための統一的な理論はないだろうかという問題がある。そのような理論的体系のひとつとして哲学そのものがある。ただしその哲学は科学との明確な相違点を自覚しつつ, しかも科学の諸成果を価値領域にもちこんで, 人間の未来を実験的に築いていくための理論を提供するものでなければならない。第2に専門化した造園計画の特色はなにかという問題がある。その特色は造園が扱う自然的材料にみられるが, ここで自然という言葉の哲学的内容が問題化する。私は自然の本質的特性である安定性と不安定性に注目して, 不安定性要因をより多くもつものとして, 「みかけの自然」の概念を仮説的に使用することによって造園計画の特色をより深い意味でとらえようと試みた。
著者
長山 宗美 吉田 鐵也
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.261-275, 1989-12-13

京都市内の一児童公園 (面積1800m_2) において, 公園の空間配置の変化が利用者の行動にあたえる影響を評価する目的で, 1989年6月に行動追跡調査法を使って子供の利用行動を調査した。当該公園では, 1958年に同様の行動軌跡の採取が行われている。その調査後, 自由広場中央部に花壇が設置された。公園の空間配置の改変によって利用行動がどの様に変化するかを比較した。子供の公園の利用時の行動軌跡のパターンは4つに分類できた。A 遊具中心の軌跡 B 遊具中心, 広場も利用するが円運動的軌跡 C 遊具と広場の軌跡 D 広場の軌跡 年齢が上がると, 遊具施設周辺のみを利用するA型から広場を主に使うD型への移行が可能になる傾向がある。改変後, 遊具中心に広場での活動をともなうB型が早い年齢で出現するようになった。すなわち, 中央花壇の設置という改変は, 低年齢児の中央進出を促進したといえる。改変により, 公園内のもっとも広いオープン・スペースが400m_2から200m_2にまで縮小したため球技など広い面積を要する遊び行動を阻害することが予想されたが, 子供たちは工夫して (花壇を含めるなど) 球技を行っていた。実際の球技に要する面積は, 広場が広い時でも200m_2未満が多かった。また, 改変後の方が空間利用密度のバラツキが小さくなり, 空間がより有効に利用されるようになった。
著者
古野 東洲 渡辺 弘之
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.41-55, 1970-03-25

この研究は, 愛媛県下の西条営林署管内および今治市長沢にあるフランスカイガンショウ林のマツノシンマダラメイガによる被害と雪による被害を, 1968年10月21 - 24日および1969年1月30日に調査し, その被害の状況を記録したものである。雪害は1968年2月14 - 16日にみられた降雪のために, 冠雪によりおこったもので, 当時あ降雪量は西条の林分では40 - 50cm, 今治市長沢の林分では20 - 30cmであったようである。調査したフランスカイガンショウの林分は調査時つぎのような状態になっていた。西条の林分は, 約1haで, 1930年に造林され, 平均胸高直径は18. 5cm, 平均樹高は推定13m, ha当り1257本で, フランスカイガンショウの純林であったが, 雪害で大きな被害をうけていた。今治市長沢の林分は, 西南向きの斜面に成立し, 約0. 2haにフランスカイガンショウに少数のアカマツ, クロマツが混生していた。ha当りの立木本数は7033本の高密度で, そのうちフランスカイガンショウは6368本であった。この林分は, 1952年秋に40年生のフランスカイガンショウを伐採した跡地に天然更新でできあがったもので, 胸高直径は1cmから12cmまで, 樹高は2. 1mから8. 9mまでの各種の大きさの個体よりなり, それぞれの平均値は4. 5cmと5. 5mであった。この林分も雪害で激しい被害をうけていたが, 約100m離れた尾根に植栽されている約0. 1haの小林分 (平均胸高直径9. 7cm, 平均樹高7. 2m, ha当り2000本) では, 雪による被害は軽微であった。雪害調査は, 幹の折損および幹の曲りを記録し, 折れたものでは, その状況 (幹が全く切断されているもの, 幹は折れているが一部で付いているもの, 幹が割れているもの) およびその位置 (樹冠内および下枝より下部) を調べ, 折損高を測った。さらに長沢の林分では折損部の直径を測り, 折損部を分枝部, 分枝部上部, 分枝部下部および節間に分け調査した。フランスカイガンショウに対するマツノシンマダラメイガの加害はすべて幹に限られ, その被害率は, 西条の林分では43%, 長沢の斜面の林分では3%, 尾根の林分では6%で, 西条と長沢で差がみられた (表-1)。雪害は幹の折れと曲りが大部分で, 幹の割れや枝抜けは数例みられたにすぎなかった。雪害率は西条の林分では71%, 長沢の斜面の林分では80%で雪害は激しかったが, 長沢の尾根の林分では13%の微害で, 長沢での両林分の雪害差の原因は, 林分を構成している個体の形状比にあるようであった (表-1, 2, 3)。雪により激害をうけた両林分を比較すると, 西条では幹の折れが雪害木の大部分 (98%) を占めていたが, 長沢では幹の折れと曲りがほぼ半々であった。さらに, 幹の折損で, 西条では折損木のうち完全に切断されたものが72%であったが, 長沢では4%とすくなく, 両林分で雪害のあらわれ方に大きな違いがあった。この原因の1つに両林分の幹の形状比の違いが考えられる (図-1)。幹の曲ったものは形状比の大きいものに, また胸高直径の細いものに多くあらわれている。幹の折損部は胸高直径が太いものは樹冠内で, 細くなるにしたがって樹冠の下で折れる個体が多くなっているが, 長沢の林分では, 折損木の23%が, 西条の林分では75%が樹冠内で折れていた (図-3)。さらに長沢の林分では, 枝階の分枝部の直ぐ上で折れているものが67%で最も多く, 分枝部 (15%), 分枝部の直下 (10%), 節間 (8%) の順になった。折損高は, 長沢では樹高の0. 2 - 0. 5倍の位置に集中 (69%) し, 大部分 (91%) は樹高の0. 6倍より下で折れていた (図-4)。西条では樹高の0. 6 - 0. 8倍のところで折れたものが多かった。折損部の直径は, 大部分の個体では, 胸高直径の0. 7倍より太く, 折損個体の約半数は胸高直径の0. 7 - 0. 9倍の太さのところで折れていた (図-5)。附近のアカマツと比較して, フランスカイガンショウは雪に対してやや弱いようであった (表-1, 4)。西条の林分で, マツノシンマダラメイガの被害をうけていた73本中, 虫害部で折れていたものは4本で, また, 雪で折れた119本中, 42本は虫害をうけていたにもかかわらず, 健全部で折れていた。すなわち, 本調査でのフランスカイガンショウの雪による折損はマツノシンマダラメイガによる幹の被害とは, とくに関係がないことがわかった。以上の結果から, フランスカイガンショウは, マツノシンマダラメイガによる被害に加えて, 雪に対しても相当に弱いことがわかり, 生長が非常に良いということで, これらの要因を考慮せずに利用することには, 大きな危険がともなうのではないかと考えられる。
著者
堤 利夫 酒井 正治
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 = BULLETIN OF THE KYOTO UNIVERSITY FORESTS (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.60-66, 1984-11-30

京都大学芦生演習林の天然生落葉広葉樹林で, 斜面上部のB_B型土壌と斜面下部のB_D型土壌の2つのプロットの細根の量と垂直分布をしらベた。B_BのプロットではB_Dのそれに比し, 乾性種が多く小径で立木本数が多い林分である。両プロットで立木間に設けた1m_2の方形枠について, 表層から10cmごとに掘りとって測定した結果, B_Dのプロットの根量は10. 25t/ha, B_Bプロットで15. 65t/haでB_Bプロットの方が根量が多かった。これらの根を径2mm以下, 2 - 5mm, 5 - 20mmに区分すると, B_Dプロットで径5 - 20mmが比較的に多く, B_Bでは逆に径2mm以下が多い傾向があった。根は地表に多く集中し, 下層に向って減少するが, B_Bプロットの方が変化が急であって, 70cm以深にはみられなかった。B_Dプロットでは径5 - 20mmの根が深さにともなってほとんど変化せず, このことが全量の減少速度を小さくしていた。径5mm以下の細根の地表からの減少速度は2つのプロットで明らかな差はなかった。細根は両プロットとも地表に集中し, 20cm深までに全細根量の65-77%を含む。その量はB_Bプロットでとくに多く, F・H層, A層が物質循環の主な場であることを示唆した。