著者
山田 義顕
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9年度は、装甲艦<A>問題が浮上する時期に、<ローマン事件>を契機として、すでに軍部対政府・議会という対立関係から、軍部・政府対議会という対立関係に政軍関係が変化していたことを指摘した。平成10度は、まず装甲艦<A>の成立過程を、軍事的、外政的側面から検討した。この点ではまず、海軍指導部が、ヴェルサイユ条約によって厳しい制約を受けながらも、北海でフランス艦隊に対抗できる新型艦の開発に成功した過程をたどった。その過程で、「砲撃では巡洋艦に、速力では大型戦艦に優越する」「小型巡洋戦艦」(いわゆるボケット戦艦)として、装甲艦<A>の決定をみたことを明らかにした。またこの装甲艦<A>は、ドイツ海軍が単に沿岸防衛に専守する任務をもつものではなく、制海権を目標とした戦前のドイツ大洋艦隊の道を再び歩む方向を決定づけたことを指摘した。つまり装甲艦<A>は、ドイツ海軍のイデオロギー的連続性を示すものであったのである。ついで、ヘルマン・ミュラー大連合内閣の時期に、1928/29年予算に計上された装甲艦<A>の第一回分割払いの問題を、「政党と海軍」、「政治と海軍」を中心に取り上げた。ここでは、装甲艦<A>の軍事的、外政的、財政的な面から建造に反対する諸政党に対し、国防大臣ヴィルヘルム・グレーナーが、どのようにこの艦の必要性を説いたかを検討した。両年度の研究実績の詳細については、『研究成果報告書』の第1章と第2章でまとめた。
著者
小風 秀雅
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

不平等条約を19世紀近代世界システムのサブシステムとして、異文化の共牛を図るとともに列強の優位を維持するシステムを内包していることを明らかにし、近代世界システムのなかに構造的に位置づけるとともに、そのシステムの形成から崩壊までのプロセスを、日本を中心に東アジアの視野のなかで明らかにし、東アジアにおける近代化の国際的前提を解明した。
著者
王 雲海
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

この研究を通じて死刑多用という現代の中国の死刑政策・死刑制度を歴史的かつ刑事政策的に深く見ることができた。つまり、中国社会が国家権力を原点とする「権力社会」であって、そこでの死刑政策・死刑制度は、封建時代から民国時代を経て今日に至るまでは、基本的に権力を中心にその統治状況により政治的に決定されており、純粋な法律制度として完全に刑事政策的に対処されることにはまだ至っていない。この「死刑の政治性」こそ中国での死刑政策・死刑制度のありかた、そして、死刑多用の現実を根本から左右しているのである。
著者
高田 賢一
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、20世紀アメリカ児童文学における子ども像と自然環境意識の変容の歴史を解明することである。そこから得られた結論の第1は、自然環境の破壊と公害の先進国であるアメリカは、児童文学の分野において人間と自然環境の調和を真剣に考える先進国でもあるということである。結論の第2は、子どもが社会改革の可能性を秘めた存在であるという点である。第3の結論は、20世紀アメリカ児童文学、特に動物物語における子ども像と環境意識の歴史的変遷を『オズの魔法使い』を始めとする主要な作品に即して解明することにより、アメリカの児童文学が未来の社会を担う子どもたちに対して、新たな自然観、さらに自然環境への対応方法を提示してきたことが明らかとなった。すなわち、自然は人間が支配することのできない他者であるとの認識を持つことの必要性である。第4の結論は、児童文学に焦点を絞ることにより、自然・環境意識の変遷、レイチェル・カーソンのいう「驚きの感覚」を持つ子どもと自然環境との関連の歴史的特質、そして児童文学作家たちの環境意識の変容を明らかにしたことである。つまり本研究は、子どもと自然環境の角度から考察したアメリカ研究なのである。今後の課題は、子どもと自然環境の関わりを重視する新たなアメリカ児童文学史の構想であり、児童文学と環境教育との結びつきを視野に入れた研究へと幅を広げる必要性ではないだろうか。今後、このような考えに基づき、さらに多くの作家・作品を対象とすれば、その研究は国内外の最先端の研究と位置づけることが可能になると思われる。
著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

人々のインタラクションは、日常の具体的な実践の文脈に埋め込まれている。そして、そうした文脈には発話や発話者だけでなく、聞き手、非言語、人工物といった様々なリソースが存在し、それらが人々のインタラクションにおける一つ一つの発話順番の積み重なりに深く関わっている。本研究では、こうした視点から多くの自然会話の事例を分析していくことを通して、日本語の使用と学習の問題を再考し議論していった。研究の目的としては、(a)日本語を母語あるいは第二言語とする者のワークプレースおける自然会話を、微視的かつボトムアップに記録し記述し、(b)こうした相互行為実践の具体的場面の事例的研究を蓄積し、最終的に日本語教育における学習や教授に関する提言を行うことであった。具体的成果として、さまざまなワークプレース(大学の実験室やアルバイト先の飲食店やボクシングジム)におけるデータの分析から、(1)彼らが会話への参加の微妙な調整を通して「参加」を組織化している様子、(2)聞き手、非言語、人工物といった様々なリソースを通してインタラクションがマルチモダルに組織化されている様子、(3)参加者による「職業的/専門的な見方」、つまり、「ある社会グループに特有の興味関心に応じる、社会的に組織されたものの見方や理解の仕方」が形成され志向され、また理解される様子、さらに、(4)人々は純粋な個体としてそこにいるのではなく、むしろ、周囲の人、モノ、テクノロジーとの布置連関のあり方を通して我々の前に立ち現れており、彼らはそうしたリソースやネットワークへのアクセスのあり方そのものであること、を明らかにした。
著者
諸 洪一
出版者
札幌学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度〜平成19年度の科学研究費補助金を受けて行った本研究の課題は、宮本小一の「朝鮮論」と宮本が進めた日朝修好条規(以下、通称の江華島条約と略す)および「附属条約」であり、明治初期の日本の外交政策における宮本の朝鮮政策の意義と位置づけを試みた。研究結果の概要は次の通りである。1.江華島条約を構想し、この構想に沿って交渉を進めたのは、宮本であったことを明らかにした。江華島条約の構想は、明治2年末の宮本の「朝鮮論」が下地になった。江華島条約は、宮本の穏健かつ穏便な「朝鮮論」に則って成約に到っていた。今までの江華島条約に対する評価は、受け身に徹する朝鮮側とこれに一方的な強要をする日本側との対立構図として描かれていた。しかし本研究の結果江華島条約は、宮本の穏健な「朝鮮小国論」に基づいた日本側の消極的な朝鮮開国交渉と、日朝外交通商体制を主導的に措定しようとする朝鮮側の積極的な交渉とが、大きな対立点を露呈することもなく折り合って成立したことを明らかにした。2.江華島条約同然その「附属条約」を構想し交渉に当ったのも、宮本であったことを明らかにした。宮本が成約に導いた江華島条約は、日本外交の穏健論の集大成であり、したがって理事官宮本によって進められた「附属条約」は、当然ながら宮本の穏健かつ穏便な外交政策が実行されたものであった。ただし宮本の穏健外交とは相容れない強硬論の京城公使館設置問題が、宮本によって主張された。京城公使館設置問題は、榎本武揚によって提起された問題であった。宮本の穏健路線の連続である「附属条約」交渉に、急遽公使館設置のような強硬論が試されたのは、榎本による「英国」流の権力政治観と原理原則的な万国公法の適用を試みる強硬外交が台頭してきたためであった。その後の日本外交は、穏健な宮本外交から強硬な花房(榎本)外交へ転換していくのである。
著者
森田 三郎 大津 真作 西川 麦子 北原 恵 坂上 香
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本共同研究の目的は、映像利用の実践と教材・モデル作りにある。そのために、研究メンバー5名と研究協力者3名を含めて共同研究会を組織し、以下の4つの具体的な計画をたてた。(1)映像制作実習法の改善。映像教材の開発。(2)メディア・リテラシー教育の実践プログラムの開発。(3)コミュニケーションの手段としての映像作品の利用法とシステムの考案。(4)メディアの発信・交信、大学と社会との交流の実践。「計画1」に関しては、研究協力者の竹田京二氏、鈴木岳海氏、研究分担者の坂上香氏を中心として、映像編集マニュアルの更新などを行った。「計画2」に関しては、それぞれ研究メンバーが報告論文の中で取り上げているが、とりわけ北原恵氏は、この問題に焦点を当てて実験的な試みを行った。「計画3」に関しては、本研究の主目標であった。フィールドワークの現場におけるビデオカメラというメディアの存在が、調査者と被調査者との関係に影響を与えることに着目した西川麦子氏の報告がある。研究協力者、辻野理花の報告も、朝鮮学校におけるビデオ制作を通した在日朝鮮人と日本人(社会)の相互理解を促進するコミュニケーションの可能性を探った試みである。また、学生が制作した自分の日常的な食生活の短いビデオ作品が、日本と韓国の学生どうしの相互理解に有効であるかを実験し、インターネットを通した交流も含むショートビデオ映画祭の提案を行った森田三郎の試みも、本研究の最終報告書に紹介されている。「計画4」に関しては、坂上香氏が2004年に制作した『Lifersライファーズ 終身刑を超えて』の全国での上映会を通して、また2006年に米国で開催されたV-Dayへの参加体験を通して、大学の枠を超えた映像による実践を行った。森田、鈴木の各論文も実践例を紹介している。
著者
村上 正直
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、(1)条約機関の先例の収集と分析、(2)日本の裁判例の収集と分析及び(3)若干の諸外国の動向の把握及び関係文献の収集を中心とするものであるが、概ねその作業を完了した。(1)については、主として、欧州人権裁判所、規約人権委員会及び拷問禁止委員会の判決及び「見解」を収集し、入手可能な資料はすべて得た。(2)については、公式判例集及び公刊されている判例誌に掲載されている裁判例、並びにインターネット(最高裁ホームページなど)から収集可能な裁判例を収集した。また、弁護士から若干の判例集未登載の裁判例を得た。これについても、入手可能な資料はすべて得た。(1)及び(2)については、その内容を検討し、入国、在留及び強制的出国(犯罪人引渡し及び退去強制)の3場面に分けて整理し、分析を行った。(3)については、従来から関心をもっていたカナダ及びオーストラリアを中心に、主として両国の関係ホームページから裁判例・決定例などの収集を行ったほか、その他の関係文献を収集した。なお、収集した文献、特に日本の裁判例などの一部について、効率的な研究遂行のために電子データ化した。ただし、匿名化が必要な裁判例や著作権の関係などで公開はしていない。研究の成果は、検討の範囲が膨大であるため、そのすべてをとりまとめるには至っていないが、現在、日本における在留特別許可に関する法務大臣の裁量に関する裁判例・決定例の典型的論理を分析し、人権条約の解釈からみた評価を行う論文を執筆中であり、近々公表される予定である。
著者
寺崎 康博
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は文化芸術活動を経済活動として体系的に整理した統計を作成し、分析することであるが、本年度は供給面、需要面について以下の7点について研究成果を得た。1 ユネスコ、EU、オーストラリア、フィンランド等における取り組みを検討したところ、教育や建築物の取扱いに差があることが判明した。日本については、統計の所在状況を勘案して、文化・芸術活動に関する体系案を作成した。2 最近時における文化・芸術関係の財の生産額を推計したところ、およそ10兆円となった。その内訳を見ると10年前と比較して鑑賞・レジャー用品が減少傾向にあるが、カメラを中心とした趣味関係の財の生産がのびていることが判明した。3 文化・芸術のサービスの生産については13兆円と推計され、財の生産と合計すると23兆円の市場規模を持ち、GDPのおよそ4.5%を占める。4 この10年間で6兆円の増加であった。また、サービスの構成比も44%から56%へ増加し、文化・芸術活動の分野においてもサービス化の進展が確認された。5 文化・芸術活動の需要面についての分析では『社会生活基本調査』(総務省)の趣味・娯楽に関するデータを利用して、一人が行う種目数と各種目の行動者率の関係を検討した。6 大部分の生活行動は若い時代に何らかの手ほどきを受けていて、普及の源泉になっていることが判明した。特に、「楽器の演奏」や「邦楽」のような趣味・娯楽活動に於ける「習熟型種目」の普及には学校教育の影響が大きい。7 また、文化・芸術を鑑賞する機会の多くは家庭にあり、演劇、映画、あるいは美術鑑賞を家族と共に親しんでいる。一方、カラオケ、競馬のような大衆娯楽は友人と行うことが契機となっていることも実証的に確かめられた。
著者
中野 洋恵 中澤 智恵 中山 実 伊藤 眞知子
出版者
国立婦人教育会館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1年次の研究の結果、情報を発信する立場からは育児情報が多様化していること、親自身の情報も必要とされていること、インターネットを使った情報提供も期待されていることが明らかになった。そこで、情報の受け手である子どもを持つ母親がどのように考えているのかを明らかにするために、子どもを持つ母親を対象に子育てに関する生活実態と意識に関するアンケート調査を実施した。調査対象者:0〜1歳の子どもを持つ母親調査方法 :東京都、埼玉県の保健所、保健センターに乳児検診に来た母親に調査票配布、郵送による回収配布数2880 回収数1075 回収率37.3%得られた知見:(1)子育てについては「周囲の意見や情報に流されず自分の育児をしたい」と考える母親が多く、子育ての自分らしさが志向されている傾向が見られる。が一方で、「いろいろな情報があり、どれが正しいか迷うことがある」も多く、必ずしも自分の育児に自信を持っているわけではない。(2)子どもを連れて家族で外出する事は多く、「よく」「ときどき」を合わせると9割を超える。子どもを連れていく遊び場情報、お出かけ情報が必要とされる背景となっている。しかし、子どもを預けて夫婦だけでの外出は「全くしない」が半数を超える。(3)子育てに関わる情報のうち最も必要とされているものは、子どもの身体に関するものであり、次が遊び場・おでかけ情報である。また、職業を持っている母親、高学歴の母親ほど自分自身にとっての情報を必要としている。(4)利用されているメディアはテレビが最も多く、雑誌、市や町の広報と続く。インターネット利用は15%である。利用したいメディアには、市や町の広報も上位に挙げられており、公的な情報が期待されている。
著者
平敷 徹男 平野 英一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

研究成果の概要: 本研究では、小売業におけるマーケティング・サクセスは、現地適応力がキーとなっていることが明らかにされた。国内においては、九州と沖縄の消費者の地域的特質の相違から地域マーケティングの可能性が示唆された。さらに海外進出についても、チェーン化による標準化より、むしろ地域の特質にあわせてグローバリゼーションを進めることが成功要因であり、ローカリゼーションとグローバリゼーションが表裏一体となったマーケティングの実践が重要である。
著者
本名 純
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

政治が民主化すると、政治暴力の形態はどのように変容するのか。インドネシアを事例として、3年間の実証研究を行った。本研究で明らかにしたことは暴力の拡散化の実態である。民主化以前には、政治暴力の中心的な担い手は軍であったが、民主化の結果、各地で「新たな」政治エリートが台頭し、彼らが「新たな」暴力の担い手を育て、そこに軍が間接的に関与する実態について、3つの政治局面(選挙・開発・紛争地)で確認した。この新たな政治エリートによる暴力の政治的リサイクルは、民主化の産物であり、そのロジックを理解することが、国際的な民主化支援や平和構築支援を行う際にも重要であることを、研究成果として国内外に発信した。
著者
田中 雅一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

女性兵士の問題は、男女平等社会を目指す立場--軍隊での機会均等の実現--と暴力--暴力装置としての軍隊--の容認という矛盾を意味し、ジェンダー研究の領域において重要なトピックとなっている。しかしながら、これまでの研究では理念が先行し、女性兵士の実態というものが十分見えてこなかった。とくに日本においては、軍隊そのものが現実味を欠いていたり、また軍隊について書くことがそのまま軍隊や戦争を支持すると誤解されやすい状況があった。こうした中で欧米の女性兵士をめぐる文献や論争の紹介がなされ、自衛隊で働く女性兵士たちの存在にも注目が集まるようになった。こうした状況で本研究ではアメリカと日本の女性兵士の歴史や実態の比較を行うことにした。方法は文献やインタビューによる。日本では男女雇用均等法の成立が女性への門戸開放への大きな転機となった。しかし、そこで大きな論争は生じなかった。これに対し、合衆国では1970年代末から女性兵士の問題が重視され、一部の女性団体は軍隊の門戸開放を強く主張してきた。その結果、一部の戦闘部門をのぞきほとんどの部隊が男女混成となった。また女性兵士とその夫、あるいは職場での関係から、女性兵士の直面する問題などを明らかにした。概して、米女性兵士は結婚後も軍務に従事し、ときに夫が除隊する場合がある。こうした事例は自衛隊の場合認められない。しかし、米兵と同じく同僚と結婚する率は高いと思われる。軍隊が一般社会とどのくらい特殊なのか、ということも本研究の中心課題である。一般化はむずかしいが、民間企業などに比べて男女の平等が自覚され、かつ制度化されている。こうした特質が一般社会に受けいられるかが重要な課題と思われる。
著者
田所 光男 長畑 明利 藤井 たぎる 布施 哲
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

今回の共同研究では、20世紀に飛躍的な発展を遂げたポピュラー音楽の歌詞を分析し、それが、一方で、「高級文化」に属する諸テクスト(文学、哲学、宗教、など)と相互浸透し、他方、特定の時代や集団の記憶、政治的・社会的意識(戦争、世代、マイノリティ、性、他者、差別、失業、暴力、人種、移民、植民、などの問題に関わるもの)とネットワークを築いている様を解明した。20世紀ポピュラー音楽は、国境を越えて地球的規模で受容されたが、音楽複製技術や音楽産業、マス・メディアが高度に発展した地域が、その重要な発信地となった。そこで、各研究分担者は、おもにアメリカ・イギリス・ドイツ・フランスの代表的なポピュラー歌手(ボブ・ディラン、ビートルズ、ローレン・ニュートン、エンリコ・マシアス、など)の歌を中心対象にして、ポピュラー音楽の言葉にかかるテクスト連関性を解明した。また、この解明に基づいて、歌詞の日本語への翻訳も試みた。市場に出回るいわゆる訳詞には、明らかに誤訳と呼ぶべきものが少なくなく、その原因のひとつは、上記のような二方面でのテクスト連関性を十分に理解していないところに求めらるからである。外部機関の研究者および所属大学院の博士課程の学生の協力も得て、ポルトガル語・アラビア語・中国語圏のポピュラー音楽も研究領域に加え、ジャンルとしても、20世紀先進諸国のロックンロールやフォーク・ソングばかりではなく、ほかの諸地域における特色ある音楽(アルジェリアのライ、上海の歌謡曲、など)を研究対象にした。
著者
藤井 淑禎
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

近代日本における<望郷>の心情をあとづけ、その意味をさぐる本研究の作業は、大きく分けて、二つの山をかたちづくることとなった。ひとつは、昭和30年代を中心とするいわゆる高度経済成長期の動向をめぐって。そしてもうひとつは、近代化を振り返る余裕も生まれた明治末期の動向をめぐって。前者については、おもに社会史・精神史的方法からのアプローチを試みた。当時の流行歌やアマチュアの書き手による手記・投書文などを素材とし、社会背景、経済事情、農業政策などを具体的なデータにもとづき復元し、総体としての高度成長期の様相を明らかにせんとした。その成果の一部は、『望郷歌謡曲考-高度成長の谷間で-』(NTT出版、平9.3)として公刊した。後者については、これとは逆に、もっぱら<振り返る>という行為の仕組みが科学的に明らかにされ、かつそれが表現手段を獲得するまでの過程を探ることに終始した。具体的には、心理学や哲学の分野で試みられた「過去」や「回想」のメカニズムの追求をめぐる諸事情を明らかにし、かつ、そうして得られた「過去」がどのようにして文章や小説のなかで表現可能となっていったかを探ろうとした。この時期、多くの小説で、「過去」の表現をめぐって構成上文体上のさまざまな試行錯誤があったことがわかるのである。
著者
木村 敬子 小杉 洋子
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究の総まとめと補充研究を行い研究成果報告書を作成した。報告書の構成は次のようになっている。まず、第1章では放課後児童施設「学童保育」設置率と高齢化率、産業別就業人口比率の関連を、1581自治体について調べた結果を述べた。設置率は高齢化率、第一次産業就業人口比率と関連があることが分った。第2章は「学童保育」在籍児童対象の調査分析である。高学年も含む児童へのアンケート調査によって、放課後の生活や学童保育観をきいた。学童保育での子ども達の生活は多彩で、仲間との遊びを楽しんでいる様子が見える反面、時には自由にしていたいという種類の答もあり、より深い面接調査の必要性が明らかになった。第3章は保護者調査である。私たちがこれまで蓄積してきた調査をさらに改訂し、東京都内で実施した。3年生までの児童の保護者である。子どもを学童保育へ行かせてよかったと思う点は「集団生活の効果」、親のしつけとは異なる指導員の「指導」を受けられる点などであること、そして改善の必要性は「保育活動・保育内容」ど「保護者活動」の側面にあると考えていることが、いずれも因子分析から明らかになった。自由に選べるとしたらどのようなことを重視するかをたずねると、「行き帰りが安全」であること、「指導員の人柄がよいこと」、「家から近いこと」などが選ばれている。最後の第4章は保護者調査と同じ放課後施設の指導員調査の結果である。指導員は、保護者が安心して働けるように子どもを保育しているという認識を明確に持ち、学童保育には子どもたちが集団生活を経験することの効用、指導員による指導の効果があることを、保護者と同様に、認識していることがわかった。
著者
副田 あけみ 山田 裕子
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

東京都の単独事業である子ども家庭支援センター事業は、現在17の区市で実施されている。本調査対象とした府中市子ども家庭支援センターしらとりは、支援センター事業と子ども家庭在宅サービス事業とを統合的に実施し、総合的な子育ての支援センターとして機能するとともに、家庭が問題を抱えてしまわないよう、予防福祉の機能を担っていることが、利用者データの分析、資料の検討、面接調査等の結果、明らかとなった。(1)電話相談の件数は年間約300件であるが、相談者も「専業主婦」、「共働き世帯の母親」、「母子世帯の母親」、「父子世帯の父親」、「子ども本人」、「親戚・知人」等と多様であるだけでなく、相談内容も「出産時や病気時の子どものケア]、「育児不安」、「子どもの躾・健康」、「残業時の子どものケア」、「ドメステック・ヴァイオレンス」、「性の悩み」等々幅広く、地域の子ども家庭に対する総合的な相談機能を果たしている。(2)相談者に対するきめ細かなアセスメントとサービス援助計画の作成、サービス利用者と提供者へのサポート活動というケースマネジメントサービスを、相談者の約35%に提供している。(3)ショートステイは「専業主婦」の「出産」や「病気」時等における一時保育サービスとして、トワイライトは「母子世帯」や「父子世帯」、「共働き世帯の母親」の「遅い終業」や「残業」、「出張」時等における夜間保育サービスとして機能し、交流事業は「専業主婦」に対するストレス緩和と予防相談の機能を果たしている。(4)ショートステイやトワイライトのサービス提供を通して、職員は夫婦間等のコミュニケーションや相互支援の促進援助を図ったり、親子、とくにひとり親家庭の親と子どもとの関係の調整援助を行い、ファミリーソーシャルワーク機能を果たしている。
著者
彦坂 佳宣
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

『方言文法全国地図』の文法地図のうち、(1)意志・推量表現(2)原因・理由の条件表現(3)仮定条件表現(4)格助詞ノ・ガ(5)準体助詞(6)活用事象を中心に、言語地理学的研究と過去の方言文献による突合せとをおこない、そこから全国方言における伝播類型をさぐったものである。伝播類型としては、(1)〜(4)は方言周圏論的な型であり、(1)(2)の一面は東西対立型の面もある。(4)(5)は方言周圏論的な型とも言えるが、個別事象が分散的に分布する型という面も強い。(6体系の点では逆方言周圏論的な型として、辺境地域で新しい傾向が強くみられるものもある。(1)の方言周圏論的型に東西対立的な模様も見られるものは、古くから中央である近畿地方からの変化の放射が西日本には頻繁に届くのに対し、東日本には緩慢である動向によると思われる。この東西対立的な傾向は(2)にも一部見られる。分散的分布は、各地に独自の変化が見られて、分布が孤立的・分散的になるものである。これは文法事象が地域独自の変化方向に従ったからと考えられる。その例の(5)準体助詞は、九州ト、土佐・北陸ガ、新潟ガン、東北日本海側ナなどがあり、ガに着目すれば方言周圏論的型とも言えるが、全体としては出自の違うものが固有の変化を遂げたものと考えられる。分布類型がこれだけではないが、主要な型はここに現れていると考える。
著者
川口 由彦
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究は、近代日本の地主的土地所有に変容が生じる1920年代に焦点を当て、これが日本の土地所有権構造にどのような変動をもたらしたかを追究するものである。具体的には、中央の立法資料でなく、地方で生じた変動を県庁文書や村役場文書をもとに検証していくという方法をとる。そのような考察対象として、群馬県山田郡毛里田村という村に焦点を絞り、ここでの地主小作関係と小作争議の収拾のあり方を分析してきた。この研究には、群馬県内での毛里田村の位置を問題とせねばならないため、毛里田村だけでなく、近隣の新田郡強戸村、同郡生品村、同郡木崎町等の地域も視野におさめる必要があり、現地調査を含め、資料調査を行った。毛里田村、強戸村は、現在は群馬県太田市域にありこ生品村、木崎町は、現在は新田町地域にある。毛里田村の資料に限っていうと、群馬県立文書館に小作調停・小作争議関係の県庁資料が膨大に所蔵されている。小作争議や小作調停が、県小作官を介して県にあがっていった場合は、これらの資料により、その概要を把握出来る。さらに、毛里田村役場資料にあたることで、毛里田村での微細な動きも把握出来ると考えた。この毛里田村役場資料は、第2次大戦後、毛里田村等の太田町周辺町村が「太田市」として合併されたとき市立図書館に保存され、現在は、太田市教育委員会が所蔵している。また、強戸村役場資料も同様の過程をたどっている。そこで、太田市教育委員会に資料閲覧と撮影を申請し、毛里田村と強戸村について膨大な役場資料を収集した。また、毛里田村の特徴をさらに鮮明にするため、群馬県以外の地方での小作調停資料を見る必要があり、秋田県、京都府、香川県、山口県の資料を検討した。これら4府県については、以前比較分析をして論文として発表したこともあり、調査は補充的なものとなった。毛里田村は、全村的に小作争議が起こり、この収拾方法として、村内すべての小作地に「査定小作料額」を農会主導で決定するという、全国的にもきわめて珍しいことを行った村である。このことを調べていくうちに、小作争議の収拾にあたって、当初村役場は、各区ごとの農事実行組合によって「査定」をするとしていたところ、小作側がこれを拒否し、各区ごとでなく、全村的に農会の手で査定すべきだと主張していったという興味深い事実が出てきた。小作調停もこれを前提とした独特の内容をもつ。そのことを比較・分析し、この3年間の研究をまとめた次第である。
著者
山本 順寛 加柴 美里 吉村 眞一
出版者
東京工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

代表者らはサポシンBがCoQ10結合蛋白質であることを報告してきた.サポシンB前駆体タンパク質プロサポシンのノックアウトマウスでは,CoQ投与食添加後の血漿中や臓器中の外因性CoQ量が低下し,外因性のCoQがミトコンドリアに到達しないことを見出した.ヒト肝がん由来HepG2細胞のプロサポシン発現量改変株解析の結果,高発現株ではCoQ10量が増加し,ノックダウン株では減少することを見出した.以上の知見から,サポシン類は,CoQ10量の維持に必須のタンパク質であると考えられた.