著者
佐藤 和夫
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.105, no.4, pp.226-237, 2007-12-17
被引用文献数
1

生命保険の告知書では生理不順,無月経,不妊症に関するものがしばしばみられる。これらの中にはプロラクチン(PRL)産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)が隠れている。プロラクチノーマは下垂体ホルモン産生腫瘍のなかでは最も多く,PRL分泌過剰症(高PRL血症)の主な原因の一つでもある。下垂体腫瘍の中で,プロラクチノーマだけが薬物療法(ドパミン作動薬)が有効かつ治療の第一とされることが注目に値する。一方,経蝶形骨洞手術は,通常,薬物を受け付けない,あるいは薬物効果が不十分な患者の場合に実施される。本稿では平成17年改訂プロラクチン分泌過剰症の治療の手引きをはじめ,その関連文献を参考にし,告知書にみるプロラクチノーマの危険選択について検討を加えた。プロラクチノーマの危険選択では,腺腫の大きさ-すなわち,ミクロ腺腫かマクロ腺腫か-を確認することがきわめて重要であり,手術死亡リスクや下垂体卒中などの生命リスク関連事項に十分注意する必要がある。
著者
林 哲也 石川 雅一 高野 哲司 安藤 公
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.373-379, 2003-12-17

告知書改訂の主目的の1つ,「体況による危険選択上必要と考えられる告知を漏れなく行っていただくと同時に,不必要と考えられる告知をしなくてもすむようにする」について検証を行った。平成12年6月から平成13年3月の申込み契約(改訂前),平成13年6月から平成14年3月の申込み契約(改訂後)のうち,報状扱のものを選び,「告知出現件数」,「有欠陥件数」および「告知欠陥出現件数」を求め,それより「告知出現率」,「有欠陥率」,「告知寄与率(告知出現中)」および「告知寄与率(有欠陥中)」を計算し,告知書改訂による告知寄与率の変化を解析した。その結果,告知出現率が減少もしくは不変であるにもかかわらず,「告知寄与率(告知出現中)」および「告知寄与率(有欠陥中)」は有意に増加していた。よって,改訂後の告知書には,体況による危険選択上不必要な告知を減らす効果だけでなく,体況上の欠陥を的確に告知させる効果もあることが示唆された。
著者
林 哲也 高野 哲司 石川 雅一 安藤 公
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.100, no.2, pp.205-218, 2002-12-17
被引用文献数
3

平成13年4月に告知書改訂を行い,その効果を検討するために改訂前後の告知項目別出現率について検討した。対象は改訂前報状として平成12年6月から11月まで,改訂後報状として平成13年6月から11月までの報状扱申込契約で,項目別に○の『有』,『無』,『記入もれ』についてそれぞれの出現率を求め解析した。解析集団の特徴として,健証・健診扱の申込数が他社に比べて多く,性年齢別分布では健証・健診扱の女性で全年齢層にわたり改訂後報状で増加していた。告知項目別出現率を選択方法別に比較した結果,項目によって選択方法別の出現傾向が違っていた。また項目によっては改訂後報上での告知出現率の減少を認めた。以上より今回の報状改訂の目的の一部は,項目によっては既に達成されたと考えられる。しかし,さらに詳しい解析を行い,その結果によっては再改訂を行う必要のある項目があることも示唆された。
著者
岩佐 寧
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.35-45, 2002-09-17
被引用文献数
6

近年の医学知識,医療技術の進歩により,以前から知ちれていた疾患の概念,検査法,治療法が大きく変貌している。本論文では,虚血性心疾患をとりあげ,リスク評価の新しいアプローチ法を紹介する。最近の日本人の生活習慣の変化はインスリン抵抗性の発症を促進する。虚血性心疾患を,インスリン抵抗性を基に発症する脂質・糖代謝などの代謝異常や高血圧の結果,冠血管が形態的変化をきたし,さらに,これらの代謝異常と高血圧がリスクファクターとして作用することにより,虚血性心発作=急性冠症候群が惹起される疾患であると捉えると,脂質代謝異常,糖代謝異常,喫煙などのリスクファクターの重要性は明白である。これらのリスクファクターの評価を通じ,虚血性心疾患は逓減性ではなく,逓増性もしくは恒常性リスクの疾患であることを明らかにする。
著者
後藤 康一 植西 邦生 岩佐 寧
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.419-430, 2003-12-17

第100回日本保険医学会定時総会が平成15年10月16日,17日の2日間に亘り東京都千代田区有楽町の有楽町朝日ホール(マリオン11階)にて行なわれた。第一日目の小林三世治会長による講演「わが国における保険医学研究」では今までの保険医学が歩んできた道筋と今後の展望が語られた。ついでAchim Regenauerミュンヘン再保険会社医長による特別講演では,ヨーロッパでの保険加入と遺伝子検査をめぐる状況と,保険医学に従事する者の果たす役割の重要性が報告された。今年のパネルディスカッションでは介護保険が取り上げられ,民間が行なう介護保険の展望が討論された。第二日目は,自社のデータに基づく研究報告や文献的考察,事例報告,提案など多様な12題の一般演題を挟んで,明治大学森宮教授は「医療リスクマネジメント〜わが国における方向性を求めて〜」と題する特別講演で,医療事故発生の原因,事故発生予防への視点,事故予防のシステム構築を説かれた。さらに,今年度は,16年ぶりに経験発生率調査ワーキンググループによる条件体についての死亡率研究報告も行なわれた。
著者
圓谷 徹彦 佐々木 光信 小原 甲一郎
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.186-195, 1992-12-15
被引用文献数
2

1980年から1988年の契約年度に標準体として契約した男性について保険年度1年から5年までを調査対象として選択区分別保険年度別死亡指数をみると,面接士扱の場合,保険年度1年度の選択効果が他の選択区分に比べて不良で,2・3・4年度も良好ではない。さらに災害死と自殺を除いた保険年度別疾病死亡指数をみると,到達年齢で30歳代までは選択効果がみられるが,40歳代においては,選択効果が認められない。面接士の選択効果の補強を体格データの面から行うため,診査医扱の体格データと他の体況データ(血圧・尿糖)の異常出現率の関係について年齢訂正Odds比の算出により分析した。その結果,BMIが25以上になると有意に体況異常の出現率が増加することがわかった。従って面接士の体格基準を他の選択区分と一率に運用することには問題があるとの結論に至った。肥満群では,再診査による体況の確認を行う必要性があると思われた。
著者
福田 健文 北島 武志
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.178-185, 1994-12-15

最近の死亡保険金の支払状況をみると,災害死については高額の保険金が多く,かつ,早期の支払が多いという印象がある。最近の当社のデータをもとに,その傾向を調査検討した。その結果,災害死は若年層において発生件数はもとより死亡指数自体も高かった。それに反して,災害死亡早期支払例においては,若年者の比は低い。又,災害死は第1保険年度で死亡指数が高くその後やや右下がり傾向にあり,逆選択の可能性を示した。個々の事例をみると,災害死か自殺か判定の難しい例もかなりみられた。災害死には特徴的な傾向があり,その死差益に与える影響にこれからも注目しなければならないと考えている。
著者
前田 優 小林 三世治 真柄 俊一
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.229-237, 1990-12-15

保険診査時の血液検査の一項目としてフルクトサミン(FA)を導入した。FAは採血時の1-3週前の平均血糖濃度を反映しているといわれている。今回,糖尿病などの糖代謝異常疾患の医学的選択資料のひとつとして利用できるかを検討した。過去ならびに現在に尿糖陽性,糖尿病,およびその疑いのあった153例のうちFAが異常値を示したものは51例であった。FAとヘモグロビンA1(HbA_1)との相関係数は0.828と強い関連を認めた。尿糖(±)以上の群ではFA,HbA_1の平均値はすべて異常値を示し,尿糖(-)群でもそれぞれ17%,15%の例で異常値を示した。今日までに血糖コントロールの指標としてHbA_1の信頼性は十分確立されてきた。しかし,生命保険診査という限られた状況において,他の生化学検査と同一試験官で採血できるFAで,HbA_1と同程度の情報を得られるなら,利便性,コストの面からFAの方がメリットがあると考えられる。
著者
濱口 知昭
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.23-31, 1998-12-15
被引用文献数
1

一般的に『生命保険』といえば,死という事象によりその保険金が支払われるのみと思うのはその発展の過程,名称から止むを得ないと考えられる。従って,生命保険の文字を見るとき,頭に飛来するのは『死』の一文字である。しかしながら,この点も時代と顧客の要請により商品を介し変化してきた。人の生活への対応課題を考えて見ると,死亡によるリスク,高度障害によるリスク,介護を受けるリスク,医療を受けるリスクと高齢になり生活するために必要な経済基盤の確立などが挙げられる。この観点から生命保険の主商品内容を整理すると,従来の死亡保障,災害保障,医療保障に加え,三大疾病保障,特定疾病保障などの疾病罹患に対する保障,更には特定損傷保障など日常生じ得る一部の外傷に対する保障,介護保障,また,老後の生活を保障する年金を含む生活保障,リビングニーズ特約(余命判断に基づく支払い)などが列挙される。この傾向をみると生前給付型保険が充実し,顧客ニーズに相応し,生活に密着した商品のラインナップとなってきていることがわかる。ここに眼を馳せる時,生命保険の大きなパラダイムの変化がみられる。即ち,保険の対象が死から生,生活へと正に推移してきたと言えよう。また給付を受けるのも家族のみではなく,被保険者本人が生前に自身で受け取り,自身の自己実現のため活用できるようになってきた。この点も大きな変化と言える。他から自身の保険への転換とも捉えられる。Life Insuranceを生命保険と訳したことも,死と直結したイメージができ上がった一因であろうが,今日ではFull Wallet & Empty Grave(一杯の財布と空っぽの墓)の言葉がでてくる様に,死のイメージとは遠い,生活に密着したイメージが出現しつつあるのが現状と言えよう。人生は,誕生という生ではじまり確かにその終焉である死で終えるが,仏教でいう四苦,生老病死はその生から死に至る生活の中にある。従来,生命保険商品は死という終焉のみに焦点があたっていたが,今日の商品の開発販売を見るとき正に人の四苦,生老病死という生活に密着した商品になっていることは見落としてはならない重要なことである。Life Insuranceは最早,今日的には生活に密着した生活保険になってきている。それ故従来にも増してこの観点を踏まえ,社会顧客の要請に十分応えていかなくてはならないと考えられる。
著者
川村 昌嗣 谷 正人
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.90-95, 1999-12-17
被引用文献数
2

人間ドッグ受診者のうち75g経口血糖負荷検査を施行された362名において,負荷後の尿糖と血糖の関係を検討した。腎臓における尿糖排泄には閾値が存在しており,理論的には同時測定した尿糖と血糖の関係よりは尿糖測定血糖値と直前の血糖値のうち高値血糖と尿糖との関係がより事実を反映していると考えられ,血糖値は160mg/dL以下で尿糖異常が検出される頻度はきわめて低いと考えられた。耐糖能異常のスクリーニング検査としては空腹時血糖検査よりも随時の尿糖,血糖の検査を行い,異常者に対しては更にHBA1cまたはFRAの測定を加えるより,OGTTを施行する方が望ましいが,保険の審査の場においてはOGTTの施行困難である。また,長時間絶食後の採血により,普段の血糖値よりも極端に低下させている場合も少なくなく,このような場合にはFRAやHBA1cの測定が有用である。
著者
小松 裕司 田口 隆司 三宅 誠
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.109-117, 1990-12-15

最近の統計上,報状扱は医的選択を行っているのに,告知書扱より死亡指数が高い。この原因を明らかにするため,払込み方法別死亡指数を検討した。観察範囲は昭和59年度から62年度の4年間,対象は当社標準体男性で,経過契約件数は報状扱約230万件,告知書扱約87万件である。払込み方法別死亡指数をみると,告知書扱では一時払50,年払い76,半年払61,職域月払83,地域月払104であり,報状扱では一時払34,年払53,半年払64,職域月払49,地域月払74と,死亡件数の少ない半年払を除き,すべて報状扱の方が低値であり,また一時払の死亡指数の低さも目立った。年度別払込み方法別件数の推移をみると,各年度ともに,告知書扱における一時払の占率が,報状扱に比べ圧倒的に高く,この結果,全体として比較すると,みかけ上,告知書扱の死亡指数が報状扱のそれよりも低値を示すようになったことが理解できる。
著者
小林 三世治 黒岩 明彦 佐野 智英 高松 俊彰 辻 泰二 日置 桂子 牧野 弘志 村田 哲雄
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.175-183, 1997-12-15
被引用文献数
1

遺伝子研究会は,遺伝子検査の生命保険に及ぼす影響を研究する目的で,生命保険協会の医務委員長の諮問機関として発足し,1996年6月に「遺伝子検査と生命保険」と題した報告書をまとめた。今回,その後の動きを加え,主として,医学的危険選択からみた遺伝子検査について報告する。遺伝子異常と因果関係が比較的明瞭な単一因子遺伝子疾患について,遺伝子検査が医学的危険選択のスクリーニングとして適しているかみた場合,単一遺伝子疾患の日本における頻度や発症年齢・予後などと現在の遺伝子検査の正確さや簡便さ・コスト等と考慮すると,遺伝子検査を導入する価値は,目下のところは,小さいといわざるをえない。癌・高血圧・動脈硬化症・糖尿病などの多因子遺伝子疾患は,単一遺伝子疾患よりも,その頻度からいって,医学的危険選択の実務あるいは保険医学的には重要と思われる。しかし,今のレベルの遺伝子検査が,告知聴取や検診,血圧測定や検尿,心電図検査や血液検査,診断書等の現行の医学的危険選択より,正確さや簡便さ・コスト等を考慮すると,特に優っているとは思えない。日本人類遺伝学会(1995年)が発表した「遺伝性疾患の遺伝子診断に関するガイドライン」によれば,同意が得られれば,個人情報の守秘義務はとかれるので,遺伝子検査の結果についても,他の医学的情報と同じような取り扱いが可能と思われる。遺伝子検査と保険に関する規制問題が議論されている欧米は,国・州によりその対応は異なっている。一国(州)が遺伝子検査の使用を禁ずる規制を設けても,遺伝子疾患を心配しない人は,規制のない隣国(州)で保険申込をし,規制のある国(州)では,逆に,遺伝子疾患を危倶する人が申し込む可能性が想定され,規制がどの程度効果を発揮するか疑問が残る。遺伝子検査が将来どのように進展していくか速断できない現在,遺伝子検査に関しても,生命保険の危険選択の基本に則り,生命保険契約の締結にあたっては,「危険選択上告知すべき事項について,保険申込者が知っているならば,保険会社も知る権利がある。また,日常診療で通常行われる検査になったならば,保険診査においても,危険選択の資料を得る目的として,保険会社はその検査を採用することができる」という立場を保険会社は保持すべきと思われる。
著者
八木 俊成
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.52-60, 2003-03-17
被引用文献数
1

我々の医務職員としての能力をより一層発揮するためには,円滑な情報入手や時間のかかる事務作業の削減が課題である。現代の企業ではそれらの課題を解決する手段として,インターネットやグループウェアをはじめとするITが活用されている。我々も社医の業務に適合したITの活用方法を考えなければならない。グループウェアには,電子メール,電子キャビネット,掲示板,スケジュール管理,フォーラム,アドレス帳,ワークフローなどのソフトウェアが含まれる。これらの機能や筆者の経験を紹介する。そして,インターネットやグループウェアを仕事に活かす方法について,筆者の愚案を述べたい。ITを活用するうえで,情報セキュリティの問題,人材育成の問題,費用対効果の問題,通信エリアの問題など課題は数多い。しかし,可能な範囲のなかでITのメリットを最大限に引き出す工夫が重要である。
著者
西野 猛
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.131-134, 2001-12-17
被引用文献数
1

平成8年に乳がんに対する90日待ち期間を設定した後の,特定疾病保障保険金の支払状況について検討した。待ち期間の設定前に比べて,乳がんに対する支払指数が著しく低下した。また,乳がん以外の悪性新生物の発生指数も低下し,がん全体における支払指数も低下した。乳がん90日待ち期間の設定によって,特定疾病保障保険金の支払指数は低下し,逆選択による加入に対して有用であったと考えられた。