- 著者
-
岡崎 俊太郎
- 出版者
- 生理学研究所
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2010
本研究の目的は,発声と聴覚(音声の聴取)の相互作用とその神経基盤に着目し,これまで吃音者の流暢性を増大させるために用いられてきた手法の作用機序を解明することである.特に発話が聴覚フィードバックに合わせて実行されてしまう「引き込み現象」について非吃音者および吃音者においてその特性を網羅的に調べた. 13名の非吃音者および吃音者5名において自声および他声を聴取したときの発話の音響特性を分析した.その結果,発話の途中における引き込み現象は非吃音者および吃音者双方に観測され,この現象によって,斉唱や遅延聴覚フィードバックが,吃音者の非流暢性低下させるメカニズムを説明できることが分かった.また発話の開始時においては非吃音者では引き込み現象が起こらず,能動的に発話を開始していたが,吃音者では発話の開始自体を聴覚フィードバックに対する引き込みに依存する傾向が見られた.この結果から,聴覚情報として自分の声が必要な遅延聴覚フィードバックよりも斉唱のほうが吃音者の非流暢性低減に高い効果を示す理由が説明できる.本研究の結果は,今後の吃音に対する言語聴覚療法に対して有用な情報を提供し,これまで健常者だけでは不明瞭であった発話制御機構の神経基盤解明につながるものである.