著者
住吉 チカ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.75-84, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
3

The aim of this study is to examine a role of kusho behavior in remembering English spellings. Japanese and Chinese subjects were given the task of verifying English spellings. In experiment 1, kusho behavior was observed among the majority of Japanese subjects. Furthermore, two types of kusho behavior were observed. One was the type gazing at their fingers during the task while the other was a non-gazing type. In Experiment 2, two groups were arranged according to their frequency of kusho behavior, in order to compare frequency of kusho behavior and its type. The esult showed that medium-high frequency group showed kusho behavior as frequently as Experiment 1, even though the task words were all phonetically discriminable. The medium-high frequency group showed no gazing and low frequency group made the only gazing type. Experiment 3 was done to clarify whether Chinese speakers, who use Chinese characters and obey a rich phonological system, would show kusho behavior in remembering English spellings. Kusho behavior was also observed among Chinese subjects, though their kusho behavior was all gazing type.
著者
菊地 一彦 中山 勘次郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.254-264, 2006-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

中学生は, 英語学習の中で特にリスニング活動に対して苦手意識を持つ傾向が強い。このため本研究では,“生きた”英語に接する機会を提供する外国映画 (ここでは英語話者の俳優によって会話される映画をさす) を, 教材として用いることが試みられた。外国映画は, リスニングする場面に魅力的な文脈を与え, また英語表現に対する様々な発見をもたらすことを通じて, 英語リスニングへの内発的興味や挑戦意欲を喚起し, 学習を促進すると予測された。実際の外国映画の一場面を視聴する条件の他, 同一内容を静止画とALTによる吹き替えで提示する条件, 日常場面での会話に置き換えてALTが演じる条件の3つの教材が比較された。その結果, 外国映画群は教材への興味や有能感が最も高かっただけでなく, 教材を用いた家庭学習にも自発的に取り組み, さらにリスニング得点も他の群より向上していた。これらの結果は,“生きた”英語に接する機会を提供し, 内発的興味を喚起する諸要因をも備えた外国映画を, リスニング教材として用いることの有効性を支持するものであった。
著者
伊藤 寛子 和田 裕一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.346-353, 1999-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23

本研究では, 非漢字圏日本語学習者の漢字の記憶表象の特性について, 自由放出法を用いて検討した。漢字能力が異なる外国人 (初級者, 中級者, 上級者) および口本人に, 思いついた漢字を15分間できるだけ多く書くように求め, その後, 各々の漢字の想起に用いられた手がかりが何であったかについての質問をした。この手がかりの内容を検討した結果, 初級者の漢字の記憶検索には意味手がかりよりも形態手がかりが多く用いられるが, 漢字能力の向上に伴って形態手がかりより意味手がかりのほうが多く用いられるようになることが明らかになった。この結果は, 第二言語の語彙表象と概念表象との間の直接的な結び付きの程度の変容という点から議論された。また, 日本人よりも外国人の検索において, 部首よりも小さな漢字の構成要素が形態手がかりとして用いられることが多いこと, さらに, 外国人の形態手がかりには, 書き順から考えて不自然な取り出し方をした漢字の部分があることが示された。これらのことは, 外国人の漢字の記憶には日本人とは異なる形態的記憶表象が存在することを示唆するものであると考えられる。
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会総会発表論文集 第58回総会発表論文集 (ISSN:21895538)
巻号頁・発行日
pp.392-479, 2016 (Released:2017-02-01)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00ポスター発表 PD02 - PD89 第58回総会HP PD02 - PD64 https://confit.atlas.jp/guide/event/edupsych2016/session/PD1/category PD65 - PD89 https://confit.atlas.jp/guide/event/edupsych2016/session/PD2/category
著者
南 雅則 浅川 潔司 秋光 恵子 西村 淳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.144-154, 2011
被引用文献数
6

本研究の目的は, 小学6年生の予期不安に関する調査を実施し, 中学校入学後の学校適応感との関連を検討することであった。小学生の予期不安は, 16名の中学生を対象に実施された予備調査を経て開発された「中学校生活予期不安尺度」によって測定された。さらに学校適応感を測定するため, 浅川・尾崎・古川(2003)の「学校生活適応感尺度」が使用された。研究参加者は, 男子小学生195名, 女子小学生153名であった。学校生活適応感尺度の下位尺度において以下のような結果を得た。(1) 教師との関係得点に時期×予期不安水準×性別の2次の交互作用が見出され, 予期不安低群において4月末では男子よりも女子の方が高かったが, 5月末にはその差は見られなかった。また, 予期不安高群において4月末では男子と女子の得点に有意差は見られなかったが, 5月末では男子よりも女子の方が高かった。(2) 情緒的安定性得点は, 予期不安水準の「低群」, 「中群」, 「高群」の順に高かった。(3) 部活動への意欲得点は, 4月末から5月末にかけて低下していた。以上の結果をふまえ, 学校心理学における個人—社会的発達の支援の視点から考察がなされた。
著者
細田 絢 田嶌 誠一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.309-323, 2009
被引用文献数
5

本研究の目的は中学生の自己肯定感, 他者肯定感と周囲からのソーシャルサポートとの関連を検討することであった。ソーシャルサポート内容として, 直接的にストレスには焦点を当てないが結果的に援助的な効果をもたらす共行動的サポートに焦点を当て, サポート源は父親, 母親, 友人, 教師の4者とし, 中学生305名を対象に調査を行った。サポート源とサポート内容の2点から検討した結果 (1) 自他への肯定感の高い中学生の方が両親からのサポート得点が高いこと, (2) 友人からのサポートは自己肯定感に関連していること, (3) 教師からの道具的サポートにおいて, 男子と女子では自己肯定感の高さによってサポート量の知覚に差があること, が明らかになった。全体として両親からのサポートの重要性と, サポート関係の性差が確認された。また教師以外のサポート源において自他への肯定感の高い中学生の方が共行動的サポートの得点が高く, 親子間や友人間での共行動的サポートの有効性が示された。加えて新たに, 父親による間接的なサポートの効果が示唆された。
著者
大谷 和大 岡田 涼 中谷 素之 伊藤 崇達
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.477-491, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
48
被引用文献数
11

本研究は, 学級で強調される社会的な目標である, 「学級の社会的目標構造」に焦点をあて, 学級の社会的目標構造が, 児童の学習における動機づけに関連するプロセスを検討することを目的とした。研究1では, 小学5, 6年生, 289名を対象に, 向社会的目標構造と規範遵守目標構造から構成される学級の社会的目標構造尺度を作成することを目的とした。その結果, 本研究で作成された尺度は, 一定の信頼性を有し, 既存の学級環境を測定する尺度と概ね予想される関連を示したことから, 妥当性の一部を有すると考えられた。研究2では, 小学校23校(117学級)に所属する小学5, 6年生合計3,609名を対象に, 学級レベルと児童レベル双方において, 学習動機づけに関連するプロセスを検討した。その結果, 両レベルにおいて, 向社会的目標構造は相互学習を通じ内発的動機づけおよび, 自己効力感と関連することが示された。一方, 規範遵守目標構造は児童レベルにおいてのみ, 有意な媒介効果を示したものの, その値自体は小さなものであった。本研究の研究・教育実践上の意義について論じた。
著者
中井 大介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.359-371, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
29
被引用文献数
5

本研究では, 自己決定理論による中学生の教師との関係の形成・維持に対する動機づけを測定する尺度を作成し, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を検討した。中学生483名を対象に調査を実施した。第一に, 探索的因子分析を行い「教師との関係の形成・維持に対する動機づけ尺度」を作成した結果, 「内的調整」「同一化」「取り入れ」「外的調整」の4因子構造であることが明らかになった。第二に, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を性別に検討した。その結果, (1) 「自律的動機づけ」が担任教師に対する信頼感と正の関連, (2) 「統制的動機づけ」が負の関連を示すこと, (3) その関連の様相は性別に違いがみられることが明らかになった。(4) また, 教師との関係に対する動機づけで調査対象者を類型化した結果, 統制的動機づけの高い類型の生徒, すべての動機づけが低い類型の生徒の担任教師に対する信頼感が低いことが明らかになった。以上, 本研究の結果から教師と生徒の信頼関係は, 教師側の要因と生徒側の要因が相互作用を繰り返すことで次第に親密になっていく過程である可能性が示唆された。
著者
利根川 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.569-582, 2016
被引用文献数
8

本研究では, 教室における児童の感情表出と学級適応感(居心地の良さ, 被信頼・受容感, 充実感)の関連を検討した。児童の感情については, ポジティブ感情(喜び, 興味)とネガティブ感情(悲しみ, 怒り, 恐れ)に着目し, 児童がこれらの感情を表出することの効果と, 感情表出のあり方が異なる学級に所属することの効果を同時に検討した。小学校4・5・6年生の児童1,968名と担任教諭70名を対象に質問紙調査を実施し, マルチレベル分析を行った結果, ポジティブ感情をよく表出する児童ほど学級適応感が高く, ネガティブ感情をよく表出する児童ほど学級適応感が低いことが示された。また, こうした感情表出の効果には交互作用が見られ, ポジティブ感情の表出が多い児童ほど, ネガティブ感情の表出による居心地の良さの感覚と充実感の低下の度合いが低いことが示された。これらの児童レベルの効果に学級間差は見られなかった。学級レベルの効果については, 児童評定値の集計値を用いた場合と, 教師評定値を用いた場合の2つの方法で分析を行い, いずれの方法で検討した場合も, ポジティブ感情の表出が多い学級に所属している児童たちほど学級適応感を強く感じやすく, ネガティブ感情の表出が多い学級に所属している児童たちほど学級適応感を弱く感じやすいことが示された。
著者
鹿毛 雅治 藤本 和久 大島 崇
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.583-597, 2016
被引用文献数
8

「当事者型授業研究」とは, 教師集団による協同的な協議を通じて個々の教師の専門性を向上させるために, 当該授業者(教師), 当該学習者(子どもたち), 当該学校の教師集団を当事者として最大限尊重するようにデザインされた授業研究の一形態である。本研究では小学校での実践事例を取り上げ, 当事者型授業研究が教師たちの専門的な学習や成長に及ぼす効果について自己決定理論に基づいて検討した。談話分析, 質問紙法, インタビュー法を組み合わせたマルチメソッドアプローチによる分析の結果, 当事者型授業研究の実践によって, 当該授業の個別具体的な文脈を伴いながら教師や子どもに焦点化された写実的で精緻な情報が交流する協議会が実現するとともに, 教師がそのような協議会を繰り返し体験することを通じて, 授業研究において当事者をより重視すべきだという教師の信念(授業研究観)が形成され, 積極的な協議会参加と授業研究に関する成果に関する自己認識が促進されることなどが示された。本研究の結果は, 当事者型授業研究が教師たちの基本的心理欲求を充足することを通して, 彼らの動機づけや専門的学習, さらにはキャリア発達を促す可能性を示唆している。
著者
庭山 和貴 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.598-609, 2016
被引用文献数
11

本研究の目的は, 教師の授業中の言語賞賛回数が自己記録手続きによって増えるか検討し, さらにこれが児童らの授業参加行動を促進するか検証することであった。本研究は公立小学校の通常学級において行い, 対象者は担任教師3名とその学級の児童計85名(1年生2学級, 3年生1学級)であった。介入効果の指標として, 授業中に教師が児童を言語賞賛した回数と児童らの授業参加行動を記録した。介入効果を検証するために多層ベースラインデザインを用いて, 介入開始時期を対象者間でずらし, 介入を開始した対象者と介入を開始していない対象者を比較した。ベースライン期では, 介入は実施せず行動観察のみ行った。介入期では, 教師が授業中に自身の言語賞賛回数を自己記録する手続きを1日1授業行った。また訓練者が, 教師に対して週1~2回, 言語賞賛回数が増えていることを賞賛した。介入の結果, 3名の教師の言語賞賛回数が増え, 各学級の平均授業参加率も上昇した。フォローアップにおいても, 教師の言語賞賛回数と学級の平均授業参加率は維持されていた。今後は, 授業参加率が低い水準に留まった数名の児童に対する小集団・個別支援を検討していく必要があると考えられる。