著者
安梅 勅江
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.125-134, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)

長時間保育の子どもの発達への影響について,2年後の子どもの発達に対する保育時間,育児環境,属性等の関連に焦点をあてて明らかにした。全国87保育園にて保護者と園児の担当保育専門職を対象に質問紙調査および確認のための訪問面接調査を実施した。子どもと保護者の両者から追跡データの得られた648名を有効回答とした。子どもの発達は運動発達(粗大運動,微細運動),社会性発達(生活技術,対人技術),言語発達(コミュニケーション,理解)について,担当保育士が評価票を用いて評価した。分析の結果,1)2年後の子どもの発達に関連する要因につき,年齢,性別を調整してオッズ比を求めたところ,[対人技術][コミュニケーション]では「一緒に買い物に連れて行く機会」,[理解]では「配偶者の育児協力の機会」「公園に連れて行く機会」が乏しいと有意にリスクが高くなっていた,2)すべての変数を投入した多重ロジスティック回帰分析では,2年後の子どもの発達に関連する要因として,[対人技術][コミュニケーション]では「一緒に買い物に行く機会」,[理解]では「配偶者の育児協力の機会」が乏しいと有意にリスクが高くなっていた,3)2年後の子どもの発達への有意な関連要因として,「保育時間」はいずれの分析でも有意とならないことが示された。これらより,子どもの発達保障として,家庭環境を含め子どもに対するかかわりの質向上への働きかけや,保護者へのサポートの重要性が示唆された。
著者
藤原 里佐
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.146-154, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
1

障害児者福祉は,障害者自身のニーズを充足し,生活,教育,就労など,あらゆる面における権利を保障することに主眼がおかれてきた。しかし,重度・重複障害児は,日常生活を営むことや福祉サービスを利用することに際しても援助を必要とする。障害を的確に把握し,自己決定の過程を援助する「特定の人」がいることで,障害児のさまざまな社会参加が可能になる。こうした役割をになっているのが障害児の母親であり,特別の内容を伴う「ケア役割」を長期的に果たしている。一方,今日の育児や介護のあり方は多様化し,女性の意識も変化している。そうした面からも,障害児の母親役割が依然として強調され,母親が「もう1人の当事者」になっていることは再考すべきで問題である。現に心身の負担やストレスなど,障害児の母親に特化する問題は深刻である。本稿では,母親の葛藤構造と障害児ケアの特殊性に注目し,ケア役割の分散化という視座から母親役割について考える。
著者
堅田 香緒里
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.16-28, 2005

「脱工業化」社会の貧困の多くも,従来の貧困同様,社会的要因に起因するものであるが,それへの社会的対応の一つとしての再分配が十全には行われていない.こうした状況が許される背景として,特定の言説の影響が考えられる.本稿ではまず,そうした言説の一つとしてアンダークラス言説を取り上げ,それが再分配に与える影響について考察している.その結果,アンダークラス言説は,アンダークラスをアブノーマルなものとして構成することによって,再分配を脱正当化しているということが明らかになった.続いて,今日,十全な再分配を要求し得るアプローチの一つとして,ナンシー・フレイザーの「再分配と承認」アプローチを検討している.その結果,彼女のアプローチは,経済的な再分配と象徴的な承認という二側面を包含している点および承認の対象を地位に求めている点において,十全な再分配の要求ないし貧困の政治にとって有用であることが確認された.
著者
岩永 公成
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.1-10, 2002-03-31 (Released:2018-07-20)

これまで,占領期児童福祉政策に深く関与したPHW(公衆衛生福祉局,GHQ)の政策構想は不分明なままであった。そこで,本稿は,厚生省児童局の設置過程を手がかりに,PHWの政策構想の解明を課題として設定した。検討の結果,次の2点が明らかになった。第1に,PHWは「児童保護活動を行ううえで,最も障害なのは日本人の児童問題に対する無関心である」とみなしていた。したがって,占領初期,PHWは「関心を喚起し,重要性を認識させること」に腐心した。通達の作成や児童局設置の推進,女性局長の提案などは,その証左である。第2に,PHWは浮浪児問題に関与し始めた頃から,「対象児童の一般化」と「関係機関の連携」という重要な政策理念を有していた。これらの政策理念は,児童局に普通児童を対象とする企画課が設置されたこと,学校保健問題にかかわる連絡調整委員会が設置されたことからわかるように,厚生省児童局の設置により一応結実した。
著者
鵜沼 憲晴 関根 薫
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.111-123, 2007-02-28 (Released:2018-07-20)

従来の高齢者虐待研究によって明らかになった実態は,いまだ表層的である.本稿は,訪問介護員を対象にM県で行った高齢者虐待に関するアンケート調査の結果を踏まえ,虐待者のうちで最も多い「息子」に焦点をあてつつ,より具体的な実態把握および今後の支援策の提示を目的とする.なお,本稿での虐待類型は,通常の5類型に社会的虐待,医療的虐待,自虐を加えた8類型としている.まず虐待を行う「息子」の待徴として,(1)世話を行っている者と虐待者の一致率が高いこと,(2)被虐待者の要介護度に関わりなく虐待が発生すること,(3)性格・人格は「粗暴な性格」および「精神的未成熟・依存」の2タイプがある等を明らかにした.これを受け,今後の高齢者虐待防止システム構築や職員の介入・支援の視点として,以下のような課題を提起した.すなわち,担当ワーカーは,(1)粗暴もしくは依存的な性格・人格がうかがえる「息子」の実態把握と経過観察を待うこと,(2)経済的虐待を防止するうえでも高齢者の収入・預貯金の把握を行うこと,(3)親子関係の修復を目的とした長期的介入を行うこと等である.
著者
笛木 俊一
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.32-44, 2018-07-20

Main issues indicated in this paper are as shown under ; (1) Infringement the rights of homeless persons. (2) Judicial remedies for the rights of homeless persons by the Public Assistance Law Cases. (3) Present Issue ; Deprivation of 'a place to live' and the way of practical actions to realize 'the housing rights' of homeless persons in the community.
著者
中尾 友紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.12-22, 2005-03-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,一般労働者を対象とした日本で最初の公的年金保険である労働者年金保険について,とくにその立案意図のひとつとされる労働移動防止の妥当性を検討し,それをとおしてこの年金の立案意図を改めて考察している.労働移動防止が立案意図に挙げられたのは,起草直前に行われた労務管理調査委員会答申にそうした内容が含まれていたと解釈されたからであり,実際にこの年金に労働移動防止の規定が設けられていたからでもあった.しかし,史料によれば,同委員会答申で提案された年金の目的は,将来に対する不安を除去し,労働者に当面の忍びがたい生活を受容させることであり,とくに鉱山労働者の精神作興を図ることであった.また,労働移動防止の規定は,それが規定された経緯から,この年金の重要性をますます高めようと,立案の最終段階になって急に付け加えられたことが明らかである.すなわち,この年金にとって労働移動防止は立案の本来的な意図ではなかったといえる.
著者
宗 健
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.15-29, 2016-05-31 (Released:2019-02-15)
参考文献数
21

本稿は,社会保障審議会での住宅扶助に関する議論と住宅扶助費引き下げに反対する意見があるなか,生活保護受給世帯の住宅扶助の現状について一定の客観的分析結果を提示し,議論に資することを目的としたものである.民間の不動産情報サイトおよび家賃債務保証会社のデータを用いた分析では,以下のような結果が得られた.1)住宅扶助費は基準額近辺に集中している.2)生活保護受給者は住居選択時に基準額に強い影響を受ける.3)年収300万円未満の世帯と比較して生活保護世帯の居住水準はやや劣っている.4)地域別の募集家賃の件数分布と住宅扶助基準額の関係は地域によって異なる.5)生活保護世帯の家賃はそうでない世帯に比べて統計的に有意に高い地域が存在する.住宅扶助費の見直しとは一律の引き下げを意味するものではなく,客観的事実に基づいて適正な水準を定めることである.同時に住宅セーフティネット全般の制度を再構築する必要がある.
著者
篠原 拓也
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.38-48, 2015-08-31 (Released:2018-07-20)

わが国では児童虐待問題の深刻化に伴い種々の法改正がなされてきた.親子分離の必要性が強く説かれるなか,社会福祉学においても児童福祉の現場実践の規範に関わることであるから,児童相談所の介入に関する法整備のあり方についての議論を進めるべきである.本稿ではConvention on the Rights of the Child (=政府訳「児童の権利に関する条約」)に照らしつつ,児童相談所による親子分離について,子どもの権利への配慮のうえでどのような不備を抱えているのかを指摘した.公権力による親子分離を原則禁止しているArticle 9.1,特にjudicial review(司法審査)の文言について,客観的解釈のほか,主観的解釈・目的論解釈を含めて総合的に検討・考察した.その結果,司法による事前審査の必要性,いっそう厳密な調査の必要性など,児童相談所の権限行使についての一定の抑止力を確保しでおく必要性が指摘できた.
著者
久保田 純
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.86-98, 2017

<p>本研究では,支援を必要とする地域で暮らす母子家庭へのソーシャルワークにおける有用な実践モデルの生成を目的として,グレーザー派グラウンデッド・セオリー(Glaser 1978, 1998)の手法を用いて,実際に行われているソーシャルワーク実践の概念化を行った.この結果,【支援リゾームの形成】を母子家庭への支援においてソーシャルワーカーが行っており,背景として〔孤立する母子家庭〕,その要因として〔母親と支援システムの不調和〕,条件として〔同調と差異を軸とした母親との流動的な関係性の構築〕〔母親と子どもの対等な関係の構築〕〔差異を取り込んだ支援システムの構築〕,結果として〔母子家庭と関係機関による支援システムの自己組織化〕といった概念が抽出され,【支援リゾームの形成】を核としたこれらの概念が支援を必要とする地域で暮らす母子家庭へのソーシャルワークにおける有用な実践モデルとして生成された.</p>
著者
杉田 穏子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.54-66, 2011-08-31 (Released:2018-07-20)

本論文は,障害の個人的経験をもディスアビリティに組み込もうとする社会モデルに立脚し,知的障害のある人の人生の語りを通して,ディスアビリティ経験(社会の側の態度や対応)が彼らの自己評価に与える影響について,共通するパターンを見いだし社会福祉実践への示唆を得ようとするものである。6人の女性の語りからは,学齢期のいじめや本人意思の無視,就労期のつらい仕事や失職といった社会の否定的な態度や対応が否定的な自己評価の積み重ねを招き,閉じこもりにも至るが,福祉サービス選択時に自己選択・決定できる機会の提供という社会の肯定的な態度や対応がなされると肯定的な自己評価に一転し,さらにひとり暮らし支援やアドボカシー役の提供でいっそう自己評価を高めるというパターンが見いだせた.これは,社会福祉実践面では,教育や福祉サービスの場の選択時,事前体験やていねいな聞き取りによる本人意思の関与が最重要であることを示唆している.
著者
廣野 俊輔
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.18-28, 2009-11-30 (Released:2018-07-20)

本稿の目的は,「青い芝の会」における知的障害者観の変容を記述しその背景を示すことである.先行研究においては「青い芝の会」が1970年に転換したとされているが,知的障害者観に関する言及はほとんどない.分析の結果,次のことが明らかとなった.会においては,発足当初から知的障害者と脳性マヒ者が混同されることに強い危機感を覚えていた.そしてそのような混同に対しては抗議を行っていた.1960年代後半ごろから知的障害者が同じ人間として尊重されるべきであり,過度に区別を要求することが差別につながるという認識をされるようになった.また,差別をされている自分たちが,差別をする側に立ち得るのではないかという認識もみられた.また,この変容の背景を分析した結果として次の要因を指摘した.第1に会における福祉サービスに対する権利意識の高まりであり,第2に学生運動における議論の影響である.
著者
西岡 弥生
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.17-32, 2019

<p>本研究の目的は,「心中による虐待死」事例の家族危機形成プロセスを検証することによって,加害者とされた母親の「喪失体験」を明らかにすることである.具体的には,自治体報告書で報告された9事例を対象に,心中が企図されるまでの家族の生活状況を二重ABC-X理論を援用し検討した.家族は【前危機段階】で,すでに不安定な生活基盤と脆弱な家族機能の状態にあった.【危機発生段階】で母親は既存の役割を失い,【後危機段階】では母親を支える重要な家族成員や日常生活の安全感,さらに関与のあった支援機関等の間での社会関係を失うという複数の「喪失体験」にみまわれていたことが示された.喪失の累積によって母親は「悲哀の病理」に陥り,認知が閉塞した状況で「心中」を企図したものと推察された.母親の精神の危機は虐待の定義では捉えきれず,社会生活が困難な母親の状況と支援者側の認識との間に齟齬が生じ見過ごされた可能性が高いと考えられる.</p>
著者
國重 智宏
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.30-40, 2019

<p>本研究は,長期入院精神障害者の退院支援場面における相談支援事業所の精神保健福祉士(PSW)の「かかわり」のプロセスについて明らかにすることを目的とする.A圏域の7名のPSWに対するインタビュー調査を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を行った.分析の結果,三つのカテゴリーからなる「かかわり」のプロセスを明らかにした.まずPSWは,退院支援という自らの業務をいったん横におき,長期入院精神障害者との〈お互いを知るための「つきあい」〉を通して,彼らに「人」として信用してもらう.次に彼らと〈パートナーとして認めあう関係〉を築き,退院という共通の目標に向けて協働する.最後に退院という目標がなくなり,援助関係が終結した後も,彼らと「人」として〈つながり続ける「かかわり」〉を築くに至っていた.</p>
著者
鈴木 良
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.33-46, 2019

<p>本研究は,知的障害者入所施設によるグループホームへの移行を前提とした施設解体を受け入れた家族がこれをどのように捉えたのかを自立規範に焦点を当てた質的調査によって明らかにした.第一に,移行前は,家族は施設からの移行は生活・就労面の自立を意味するものと認識し,ここには障害者自立支援法に関わる施設側の説明も影響していた.この結果,家族は子の自立困難性に伴う不安感や自宅復帰への懸念を抱えた.しかし,家族は職員への信頼や遠慮ゆえに施設側の決定に委ねるという受動的態度が見られ,これは家族が自立規範に基づき養育すべきだという家族規範が影響していた.第二に,移行後はまず,グループホームは生活・就労面の自立を前提とする場と認識されていた.次に,自立困難になる将来の予測不可能性に伴う不安ゆえに施設入所を容認/肯定する状況が見られた.本研究は自立規範の相対化と家族支援による脱施設化政策の必要性を示唆する.</p>