- 著者
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寺山 誠人
- 出版者
- 宮崎県水産試験場
- 巻号頁・発行日
- no.8, pp.1-94, 2004 (Released:2013-08-30)
カツオはクロマグロやメバチマグロに比べて肉色が暗赤色を呈し、格段に変色しやすいが、その要因はクロマグロやメバチマグロでは漁獲直後に脱血するので、ヘモグロビンがほとんど含まれていないのに対して,カツオでは多量の還元型ヘモグロビンが含まれていることや、pHが低く、メトミオグロビンに対する酵素的還元力が弱いことが挙げられている。そこで漁獲直後のカツオ、カンパチ、ハマチを活けしめ脱血して、漁獲物の高付加価値化および消費拡大を図ることを目的に、上記のような紡錘形魚の活けしめ脱血装置を開発し、その品質向上効果について研究を行った。第I章では、カツオに対する活けしめ脱血の効果について調べた。近海カツオ一本釣り漁業で漁獲された釣獲直後のカツオ活魚を使用し、船上で活けしめ脱血処理を行った。最初に脱血の方法について検討した。延髄および尾部を包丁で刺す方法が最も脱血率(全体重に対する放血量の割合)が3.3%と高かったが、延髄部を包丁で刺す方法でも2.9%であり、船上での作業を考慮すると延髄を刺す方法が実用的であると判断した。次に、対照区(苦悶死)、打撃区(即殺無放血)および脱血区(延髄刺殺)のカツオを調製した。36時間水氷貯蔵後の背肉のpHは、対照区が5.3と最も低く、次いで打撃区の5.4、脱血区5.6の順であった。ゲルろ過カラムを用いた高速液体クロマトグラムによりミオグロビンを分画し、フォトダイオードアレイ方式によってメト化率を測定した。メト化率は対照区が22%と最も高く、10%以下の打撃区と脱血区に差はなく、対照区より低かった。肉の赤さとして色差計によるa*値を比較したところ、脱血区が最も赤く、対照区に比べて有意に赤かった。船上凍結試験でも対照区より脱血区の方が赤かった。仲買人および量販店の仕入れ関係者による官能試験では、脱血区の方が肉色が明るく鮮やかで、生臭くなく、対照区より高い評価が得られた。沿岸曳縄漁業で漁獲したカツオは、活けしめ脱血した方が水氷じめしたものより破断強度が高かった。第II章では、活けしめ脱血を実用化するために装置の開発を行った。装置の開発では、ドリルおよび丸のこなど4台の部分試作機を製作して比較した。延髄部切断したカツオと延髄部破壊したカツオの冷却の状況を比較したところ、延髄破壊の方が速く冷えた。また、船上での作業性、処理速度、可食部のダメージおよび外観を比較し、ドリルで脳、延髄および鰓部をくり抜く方法を採用した。この方法では、カツオの向きを制御する必要があるが、丸みをつけた金属板でカツオ胴部を挟みつけることにより背を上、腹を下に制御できた。本装置は1尾あたり4秒で処理でき、重量約70kg、脱血率は3.1%であった。品質を比較するために本装置で活けしめ脱血処理したカツオと、水氷でしめたカツオを100尾づつ調製し、流通関係者100名を対象に官能検査を行った。官能検査では、肉色、匂いおよび味いずれも本装置で処理したカツオの方が有意に勝っていた。パネリストの多くは、装置で処理したカツオはモチモチとした食感があると記載していた。第III章では、カツオと同様に紡錘形の体形である養殖カンパチについて、活けしめ脱血装置の効果を調べた。カンパチの体形に合わせた活けしめ脱血装置で処理した①機械じめ、従来法である②水氷じめ、包丁で延髄を刺す③延髄じめ、および機械じめした後圧縮ガスで脊髄を圧搾した④脊髄じめの4試験区を調製した。調製して約10時間後、背部筋肉のpHは、機械じめがぱらつきもなくpH6.8と最も高く、他の3区はpH6.0~6.3の範囲内であった。ATPおよびグリコーゲン量でも約6.mol/gおよび約400mg/100gと機械じめが最も高かったが、乳酸は約450mg/100gと最も低かった。鮮度指標であるK値に、区間の差は見られなかった。肉の破断強度は、機械じめおよび脊髄じめに差はなかったが、手じめおよび水氷じめより高い値を示した。機械じめの破断強度は10時間後で465g、75時間後で359gに対し、水氷じめのカンパチは10時間後333g、75時間後266gであった。養殖ハマチの破断強度においても、機械じめの方が水氷じめより高い結果であった。以上の結果から、カツオなどを活けしめ脱血すると肉色が良くなり、血生臭くなく、破断強度は水氷じめより高くなることが明らかとなった。また、本研究で開発した活けしめ脱血装置を使用すると、鮮度のばらつきが小さく、カツオなど紡錘形魚の品質向上に有効であることが明らかとなった。