- 著者
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阿部 善也
権代 紘志
竹内 翔吾
白瀧 絢子
内田 篤呉
中井 泉
- 出版者
- The Japan Society for Analytical Chemistry
- 雑誌
- 分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.6, pp.477-487, 2011-06-05
- 被引用文献数
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5
国宝 紅白梅図屏風(尾形光琳作)は,先行研究でその金地が金箔製ではない可能性が指摘され,社会的に注目された.その一方で,金地が金泥で描かれたものであると判断するに足る科学的根拠は得られておらず,金地の製法に関して疑問が残されていた.本研究では最先端の可搬型分析装置を用いたオンサイト非接触複合分析により,金地の製法解明を図った.特に金箔の延伸過程で生じる金結晶の配向現象に着目し,新規の手法として粉末X線回折法を導入し,金箔・金泥の判定を行った.粉末X線回折測定により屏風金地を分析した結果,屏風の金地部分では金結晶が<i>a</i>軸方向に選択配向していることが明らかとなった.この結果は屏風に先立って分析された現代の金箔の結果と一致した.さらに屏風の金地全体に格子状に浮き上がって見える部分については,金の厚みが2倍以上になっていることが蛍光X線装置による線分析によって示され,2枚の金箔が重なった箔足部分であることが判明した.以上の結果より,屏風の金地は金泥ではなく,金箔であることが明らかとなった.