- 著者
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横田 明重
- 出版者
- 社団法人日本産科婦人科学会
- 雑誌
- 日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
- 巻号頁・発行日
- vol.45, no.1, pp.15-22, 1993-01-01
- 被引用文献数
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ω3系多価不飽和脂肪酸(以下ω3系PUFAと略す)は必須脂肪酸として脳, 網膜, 精巣に多く存在し, その欠乏により種々の障害を引き起こすといわれている. ω3系PUFAが極端に少ないサフラワー油食によりω3系PUFA欠乏ラット(SA群)を作成し, 胎仔, 新生仔および離乳ラットの脳の脂肪酸組成と学習能力の関係について検討し, 以下の結果を得た. 1. SA群は, 脳のDHAがControl群(SO群)に比し減少した. 2. SA群ではSO群に比してARが低値であり学習能力の低下がみられた. 3. SA群に離乳時(生後21日)からControl食を摂取させたSAO-1群ではARは速やかにSO群と同等となつた. 4. 条件回避学習開始時(生後60日)にControl食に変更したSAO-2群では, SAO-1群に比して遅れて条件回避率が上昇した. 5. 条件回避学習終了後の脂肪酸分析では, SAO-1群, SAO-2群のDHA, C22: 5ω6はSO群のレベルまでほぼ回復した. すなわち, 母獣の摂取する食餌により胎仔の脳, 分娩後の母乳, 新生仔の脳の脂肪酸組成は影響を受け, さらに離乳ラットの脳の脂肪酸組成は直接摂取する食餌の影響を受けることがわかつた. また, 脳のDHAの比率に並行して学習能力が変化することがわかつた. 以上のことより, DHAの脳構成成分としての重要性, 妊娠中, 分娩後の母獣の摂取する食餌の中のω3系PUFAの重要性が示された. さらに, 新生児を管理する際に母乳栄養の合目的性, 母乳摂取不可能な場合のω3系PUFAの補充の必要性が示された.