- 著者
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井福 正規
- 出版者
- 社団法人日本産科婦人科学会
- 雑誌
- 日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.8, pp.785-792, 1976-08-01
胞状奇胎排除後,その性周期が正常化する経過における視床下部-下垂体-卵巣系の動態を解明する目的で,良好な経過を辿つて,正常月経周期の発来した9例の患者について,(1) 基礎体温曲線(basal body temperature, BBT),(2) molar tissue由来のhCGのspecificなhCG β-subunitのradioimmunoassay,(3) 下垂体前葉からのLHおよびFSHのradioimmunoassay,(4) LH-RHによる下垂体反応テスト,(5) 血中progesteroneのradioimmunoassayを実施して次の結果を得た. 1. BBTは胞状奇胎排除後,比較的高い高温相より,徐々に下降して低温和となり,次に高温相に移行後初回月経が発来し,以後は正常周期(二相性)を示した. 2. 胞状奇胎排除後のhCG β-subunitはBBTの下降に伴い低下するが,初回低温相時期でも微量ながら測定可能であり,hCGの血中遺残が考えられた.しかし,次の高温相時期では消失すると思われる成績を得た. 3. pituitary gonadotropinの分泌は血中FSH値からみるとsuppressionの状態から除々に解放され,初回低温相でnormal follicular phaseのlevelまで回復した.又,この低温相から高温相への移行時期でのLH peakは平均62.8(range:56.5〜71.0) mIU/mlで,僅かに低く,初回月経後のovulatory peakは正常月経周期の範囲内にあつた. 4. 合成LH-RH 100μg筋注に対するpituitary responseは,LH, FSHのいずれの分泌も初回低温相の時期にsuppressionから解放される傾向を示した. 5. progesterone値は胞状奇胎排除後7日目に既に低値となり,初回低温相から高温相に移行するとともに増加して,2.43±0.52ng/ml(mean±S.E.)となり,更に初回月経後の高温相では3.14±0.62ng/mlであつた. 以上の成績より,胞状奇胎排除後婦人の視床下部-下垂体-卵巣機能は,molar tissueに由来するhCGの消褪に伴い,徐々にsuppressionより解放され,初回低温相の時期には微量のhCG β-subunitの遺残がみられるが,basal FSHはnormal follicular rangeとなり,LH-RHに対するpituitary responseも比較的良好となり,性周期の正常化が出現するものと推論される.