- 著者
-
小林 浩
- 出版者
- 社団法人日本産科婦人科学会
- 雑誌
- 日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, no.7, pp.828-834, 1988-07-01
2型糖鎖抗原に属するSialyl SSEA-1抗原を用いて婦人科疾患, 特に卵巣癌に対する腫瘍マーカーとしての有用性について検討するとともに, CA125との関連についても検討した. 子宮筋腫, 子宮内膜症, 良性卵巣腫瘍患者の平均値±標準偏差および陽性率は, 28.5±12.2U/ml(16.1%), 33.2±13.5U/ml (31.3%)および30.0±30.3U/ml (11.6%)であり, 子宮内膜症患者に比較的高い陽性率を認めた. 卵巣癌患者の臨床進行期別にその平均値±標準偏差および陽性率を求めると, I期は28.9±15.3U/ml(20.1%), II期は45.3±30.7U/ml(43.8%), III期は182.3±643.3U/ml(50.0%)およびIV期は63.2±70.4U/ml (72.2%)とその陽性率は臨床進行期が進むにつれて上昇した. また, 治療経過に伴うSialyl SSEA-1の変動は予後とよく相関した. CA125とのコンビネーションアッセイでは, Sialyl SSEA-1陽性でCA125陰性例は1例しか存在しなかつた. しかし, CA125と異なり, Sialyl SSEA-1は妊娠による影響が少ないため, 卵巣腫瘍合併妊娠における有用性はCA125より優れていた. 一方, 各種疾患腹水中や体液中のSialyl SSEA-1濃度を測定した結果, CA125と同様にチョコレート嚢胞内容液, 羊水中および卵巣癌患者腹水中に極めて高濃度の抗原が存在した. さらに, 子宮内膜症患者の腹水中濃度も比較的高値を示すため, これが血中濃度に反映している可能性が示唆された. 以上より, Sialyl SSEA-1抗原はCA125と同様, 子宮内膜症で比較的高値を示す傾向を認めたが, その陽性率はCA125より低率であつた. また, 卵巣癌の血清学的診断における有用性に関しては, 卵巣癌全体では47.2%に陽性を認め, 臨床的には予後をよく反映したが, 早期癌における陽性率が低く, 早期発見には不適当であつた. さらにCA125とのオーバーラップを認めたため, コンビネーションアッセイによる陽性率の上昇は期待できなかつた.