著者
今野 真二
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.59-73, 76, 2001-03-31

本稿では、西行を伝承筆者とする一〇文献に就き、これまで藤原定家の表記に関して指摘されてきたことがらが定家に先立つ藤末鎌初の仮名文献資料に看取されるのか否か、という観点を設定しながら、ひろく当該期の仮名文献を見渡して気づいたことがらの報告を行なう。これらの文献には後世のような、表語ひいては音韻と結びついた機能的な仮名文字遣はいまだみられないが、「行」に関わる仮名文字遣らしきものはみえており、書記の単位としては「行」が中心であったことを窺わせる。ただし、その一方で、〈ゆへ〉〈まいる〉〈なを〉〈ゆくゑ〉など、語によっては古典かなづかいに非ざるかたちが固定化し始めており、書記の意識は「行」から、「語」へと移行しつつあると思われる。藤原定家との関わりで言えば、行頭に同じ仮名が並んだ場合の「変字」は、当該期の資料にもみられ、また異体仮名〈地〉を音韻ヂに充てたと覚しき例も散見する。したがってこれまでに定家の書記に関して指摘されていることがらの多くは藤末鎌初の仮名資料にもみられ、定家はそれらを総合的にかつ意識的に行なったと考えるべきである。「定家以前」の状況が明らかになることによって、これまで定家に関して指摘されてきたことがらを史的展開の中で評価することができると考える。

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