著者
鈴木 浩
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.78-79, 2001-03-31

用言句と用言句とを結ぶガの接続助詞化について,石垣説(石垣謙二「主格『が』助詞より接続『が』助詞へ」)をふまえ,平安期にみられるその変化過程に関して若干の変更を提案した。以下,[ ]内は石垣説での用語。1)「用言句+ガ+用言句」の形は初期訓点資料からその例が見出され(公刊されている解読本文での調査に基く),ガが主格をあらわすと認められるもの(→主格型)と,同格をあらわすと認められるもの(→同格型)とに分けられる。2)二類はともに「名詞+ノ(同格)+用言句a+ガ+用言句b」の形を基本形式とし,用言句aは(同格型では用言句bも)先行の名詞を意味上装定する関係になる。この名詞は新出の事物だったり個体としての特定化がなされる以前の意味だったりといった,文脈上の特性が認められる(→基点名詞と呼ぶ)。3)石垣説にあって[主格形式第一類]と位置づけられた例は『竹取物語』以降の和文に見られ,上記主格型(=[主格形式第二類])・同格型よりも文献上の出現が後れる。この類での用言句aは用言句bの知覚対象としての事態で,述定の句であり,異質な面をもつ(→対象型と呼ぶ)。4)主格型・同格型と対象型とは『平中物語』以降の和文では混在して見出され,さらに『大和物語』・『源氏物語』からは主格型での用言句a,同格型での用言句a・bの中に述定の句へと変質したものが見られるようになる。とりわけ主格型における変化では,〈い〉用言句aに先行する名詞が既出の特定個になっていて,もはや後続用言句の装定を得て特定化されるものではなくなっている,〈ろ〉基点名詞とおぼしき名詞が格助詞ヲを伴って現れ連用格成分化している,という例(→述定主格例)が認められ,用言句aの述定化と連動する現象と考えられる。この〈い〉は[主格形式第二類の変化形式]と重なる部分があり,〈ろ〉は[主格形式第三類]である。石垣氏はこれらをガが接続助詞化する上での中間的な形と位置づけたが,そのことは用言句aの述定化を上のように論定することで再認される。

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