著者
尾形 佳助
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, 2001-09-29

「高起式」と「低起式」の2種を区別するいわゆる「京阪式アクセント」が,近畿地方とその近隣各地に広く分布しているが,特に動詞類の場合,ピッチの下降が起こるか否かが活用形次第で決まるということもあって,ピッチの下降は,従来,活用語尾に内在するアクセント情報(例えば「アクセント核」など)がそれを原因づけているものと考えられてきた。しかし,そういう前提で話を進めたのでは,とりわけ低起式の動詞形がしばしば低く始まらないという事実がうまく説明できないということで,本発表では発想を転換し,動詞類の音調はピッチが下降するのがむしろ普通の状態(unmarked)であると仮定し,その前提で,概略以下のような議論を提示した。アクセント体系の普遍的な類型論からして,京阪式動詞類はまちがいなく,高低2種を区別する声調タイプに類別されるものである。同じ声調言語でも,日本語タイプの形態論にしたがう言語なら,声調が実現する範囲,すなわち「声調領域」を定めるルールが必ずや実在するはずである。そのルールは,最も単純なパターン分析が可能な完了条件形(「タラ形」)や否定形(「〜へん」の形)の音調パターンからして,次のようなものと考えられる。(1)動詞語幹末子音をさかいにして,そのまえの部分を声調領域とせよ。声調領域に照らして現実のピッチ形をよく観察すれば,ピッチの下降を原因づけるもう一つの可能性が見えてくる。従来,無造作に語尾のせいにされてきたピッチの下降は,実際には次のような言語本能がその真の要因となっているものと考えられる。(2)声調境界明示の原理:声調領域と声調領域外を隔てる境界は,それに隣接する2モーラに境界信号音調HLを付与することによって,これを明示せよ。

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