著者
舟川 哲
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
no.73, pp.20-37, 2003-03-20
被引用文献数
2

本論では, 南大洋における後期始新世から漸新世にかけてのテクトニクスイベントおよび堆積物から読みとれる気候イベントを総括し, 海洋の微化石群集の変化が, これらとどのように結びついているかを論じた(図14).(1)後期始新世では, 南タスマン海膨が沈降を開始し, インド洋-太平洋間に海路が徐々に形成され始めた.すでにこの時期に海水温の低下がみられるが, その原因はよくわからない.酸素同位体比および南極大陸縁辺の堆積物からみると, このとき南極大陸には短期間ではあるが, 小規模な氷床が形成されていた.この寒冷化によって, 海洋の石灰質微化石(浮遊性有孔虫, 石灰質ナノ化石)は, 温暖種が段階的に絶滅した.珪質微化石は, 温暖種が徐々に絶滅する一方で, 新たに出現する種がみられるようになり, 群集全体の種数も増加した.(2)E/O境界付近では, インド洋-太平洋間に表層水が通過できるような海路(タスマニア海路)が形成され, 周南極海流の原型が出現した.このため南極大陸ではさらに寒冷化が進み, 東南極大陸を中心として大規模な氷床が拡大した(Oi1イベント).この時期は, 北大西洋における深層水(NCW)の出現時期とも重なる.氷床の拡大と同時に, 現在の南極発散線に相当する湧昇域が出現し, 海洋表層の生産性が増大した.これに伴って, 珪藻の出現イベント, 放散虫群集の構成種の入れ替わり, 石灰質ナノ化石群集における寒冷種の増加などが起きた.(3)前期漸新世の前半(33.7〜30Ma)では, 海洋微化石群集はそのほとんどが寒冷種群から構成されており, 構成種の入れ替わりや新たな種の出現はほとんど認められない.その後, 前期漸新世の後期では, 南極半島の縁辺にあるパウエル海盆が開き, 太平洋と大西洋の間に表層〜中層水が通過できる海路が形成され, 現在の形に近い周南極海流が完成した.これに伴い, 南極大陸では, 前期/後期漸新世境界の付近でふたたび大規模な氷床の拡大がおこった(Oi2aイベント).

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こんな論文どうですか? 始新世/漸新世境界付近における南大洋の古海洋学,2003 http://ci.nii.ac.jp/naid/110002704287

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