- 著者
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中藤 康俊
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.1, pp.1-17, 1993-03-31
ゴルバチョフ大統領(旧ソ連)のペレストロイカ政策とソ連邦の崩壊, ベルリンの壁の崩壊などによる旧ソ連・東欧諸国の改革・開放政策, 朝鮮半島の緊張緩和など, 東西冷戦時代の終焉とともに日本海を囲む日本, 旧ソ連極東地方, 韓国, 朝鮮民主主義人民共和国, 中国東北三省などの間で国境を越えて経済交流を活発にし, 「環日本海経済圏」をつくる動きが強まってきた. 日本ではとくに日本海沿岸地域の自治体や経済界・民間レベルで経済交流が活発である. 最近のEC統合, 北米自由貿易協定の調印, 華南経済圏の形成などはこうした動きを加速させている. 本論文は「環日本海経済圏」をつくることの意義と課題を明らかにしたものである. その結果, 環日本海経済圏をつくる意義としては日本海沿岸地域の振興, 日本経済の構造転換と東京一極集中の是正, 日本海をとり囲む国々の相互補完性, 経済大国日本の国際貢献の点が指摘できる. そして, そのための日本の課題としては対岸諸国の歴史と現状に対する十分な理解と反省, 経済交流のほかに教育・研究, スポーツなど多様な交流の必要性, 日本海沿岸地域相互の交流とそのためのインフラの整備の一つとして日本海国土軸の形成, 日本企業の監視と規制の4点をあげたい. 対岸諸国の課題としては, 政治的安定と経済の改革・開放, 市場経済と投資環境の確立, 情報の公開などが不可欠である. 最後に日本と対岸諸国が共通してかかえる課題としては, 中央集権的なシステムの改革, 政府レベルの協力, ハード, ソフトの両面にわたるインフラの整備と人材の育成などである. 環日本海経済圏を構成する国々のなかでは日本が資本と技術の面でとくに優れており, その中心的存在であることは言うまでもない. しかし, 日本はこれまでガットの自由・無差別, 多角的貿易体制のメリットをもっとも多く受けた国であり, 今後もこの体制は維持しなくてはならない. したがって, リージョナリズムがグローバリズムを補完するような望ましい関係を育てていく努力が必要である. また. 環日本海経済圏を構成する国々はいずれの国も政治的・経済的問題をかかえている上に宗教・民族などがちがっており, 「環日本海経済圏」という一つの「経済圏」をつくることは決して容易でないことも事実である. しかし, 21世紀の日本が国際社会にどうかかわりを持つかを考えたとき, 「環日本海経済圏」は今後の大きな課題であることだけは間違いない.