著者
斎藤 丈士
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.19-40, 2003
被引用文献数
4

日本の農業構造政策は,1990年代よりグローバリゼーションの影響を受けてきた.それに加えて,1990年代中頃からの稲作部門への市場原理の導入は,大規模稲作農家の経営に変化を与えた.本稿の研究目的は,農地流動と農家の階層移動に注目して,1990年代における北海道の大規模稲作地帯の形成と変動を明らかにすることにある.主たる対象地域は,北海道北空知地方の沼田町である.沼田町の稲作農家は,1990年代以降,北海道農業開発公社の事業を利用して農地の購入を進めてきた.開発公社事業を利用しない農家についても,相対取引や離農農家からの農地の借り入れによって経営規模の拡大を図ってきた.北海道の稲作地帯では,農地の取得を前提とした自作農的な規模拡大から,府県と同様に借地による規模拡大へと変化しているといわれる.本稿においても,農地の賃借権設定による農地の移動が,農地流動全体の中で一定の地位を占めていることを確認した.調査地域の農家は,1990年代に北海道農業開発公社の事業の利用や農地借用によって経営規模の拡大を進めてきた.しかし,米の過剰基調にともなう米価低迷により,稲作による収益は農地購入当初の見込みとしていた水準から乖離する結果となった.一方で,農地価格の下落も米価低迷と同時期に生じた.このことは,賃借権設定による農地流動展開の一要因となったと考えられる.しかし,小作料の高止まりもあり,これまでの急速な規模拡大路線にも一つの転機が来ているように思われる.

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