著者
片岡 博美
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-25, 2004
被引用文献数
2

近年の国際労働力移動を取り巻く変化の中,外国人労働者と彼らのエスニック・コミュニティ,エスニック・ビジネスは,積極的に評価される傾向にある.本研究では,受入先の地域社会におけるエスニック集団の主体的活動であるエスニック・ビジネスに注目し,静岡県浜松市のブラジル人を対象としたエスニック・ビジネス事業所でのアンケート調査及び聞き取り調査をもとに,その現況,地域的展開を分析し,それらビジネスがブラジル人や受入先の地域社会に対して果たす役割や意義を検討した.1990年の入管法改正以降の浜松市及び浜松都市圏内におけるブラジル人の増加に伴い,浜松市のエスニック・ビジネス事業所の多くはその商圏を拡大させ,近隣居住のブラジル人を対象とした小規模な「狭域エスニック型」とともに,市外の広域な地方のブラジル人を対象とした「広域エスニック型」,ブラジル人以外をも対象とした「外部市場進出型」事業所が増加した.2000年以降,ブラジル人を対象とした市場が飽和状態となり淘汰・転換期を迎えた浜松市のエスニック・ビジネスであるが,広域な地方をターゲットにした事業展開や外部市場への進出に活路を見出す事業所は依然増加傾向にあり,今後も継続的発展が予測される.浜松市におけるエスニック・ビジネスは,ブラジル人コミュニティの中心やブラジル人援助の中心,そして受入社会との接点としての役割も果たしており,「民族/生活様式」専門化地域として,交流・接触の場として,トランス・ナショナルな文化空間として,自助組織結成の布石として,地元の地域社会に貢献し得る可能性を持つ.

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