著者
神谷 浩夫
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.221-237, 2002
被引用文献数
1

これまで日本の医療に関する研究では,社会的な平等性の重視が日本の医療の特色であると指摘されてきた.しかし空間的な観点からみると,自由診療制度を採用している日本では医療資源の地域的な不均衡が生じている.本稿では,精神科診療所の立地パターンを把握し,近年における大都市で精神科診療所が急増している背景とその意味を明らかにしようと試みた.まず,日本の戦後における精神医療の変遷を概観し,現在の精神医療制度が形成されてきた過程を考察した.戦後の日本では「社会防衛」の観点から低コストで患者を収容するために民間精神病院が大量に建設され,その多くは市街地から離れたところに立地した.精神医療が次第に開放医療,地域医療へと向かう中で精神科診療所も増えていったが,それはターミナル駅周辺の地域に開設されることが多かった.1980年代後半に入ると,診療報酬制度の度重なる改訂によって次第に精神科診療所の経営が安定するようになり,診療所の開設が相次ぐようになった.開設された診療所の多くは,従来のターミナル駅指向,駅周辺の商業ビル指向,商業地区.繁華街指向というパターンを強めるものであり,その背景には,利便性を重視して立地する診療所側の要因とともに,通院していることを周囲に知られたくないという匿名性を優先する患者側の要因も存在していた.こうした診療所立地の傾向は,アメリカにおいて精神病退院患者が都市計画規制の緩やかなインナーシティに集積している傾向と類似していた.

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