著者
安藤 剛寿
出版者
社団法人人工知能学会
雑誌
人工知能学会誌 (ISSN:09128085)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, 2001-11-01

コンピュータを用いたゲームは, 以前から学術的な研究の素材として取り上げられることが多く, 近年, チェス, オセロなどの完全情報ゲームのいくつかでは, コンピュータが人間のチャンピオンに勝つという成果を納めた.しかし, 不完全情報ゲームには, 特有の問題が数多く存在するため, 完全情報ゲームの手法をそのまま不完全情報ゲームに適用することは難しい.本研究では不完全情報ゲームの一つであるコントラクトブリッジのビッドを例題として, 仮説推論機能をもつエージェントを用いて, そのような問題の解決に挑戦した.本論文では, まず, 不完全情報ゲームの新しいモデルを提案した.このモデルでは, ゲームを行うプレイヤをエージェントとし, このエージェントはゲームに関する知識と, 隠された情報をアブダクションにより推論を行う能力, 推論した情報から行動を決定するための判断基準をもつものとした.次に, 提案したモデルに基づいて, コントラクトブリッジのビディングをマルチエージェントシステムとしてモデル化した.ここでは, 各エージェントは, パートナーと協力して利益を最大にし, 敵と競合して損失を最小にするように振る舞う.そして, 制約論理プログラムを用いて, このモデルの完全な実装を行った.商用のコンピュータブリッジとの対戦や, さまざまな条件下での実験を行い, 人間的な柔軟性と, 商用のシステムに勝るとも劣らない実力を確認し, モデルの有効性を示した.また, エージェント間の推論の入れ子構造や協調のための接近原理, 競合のための情報交換阻止など, ほかの不完全情報下でのマルチエージェントシステムにも有用と思われる知見を得ることができた.

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