著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.77-92, 1989-07-30

本稿では,1983年から1986年にかけて調査したモルッカ諸島のセラム島・アンボン島から採集したシダ植物標本に基いて,ハナヤスリ科(3属5種),リョウビンタイ科(3属6種),ゼンマイ科(1属1種),マトニア科(1属1種),ウラジロ科(2属10種7変種),カニクサ科(2属7種),キジノオシダ科(1属2種)を報告する。ハナヤスリ属のO. reticulatumと仮同定したもの(胞子形態はO. parvifoliumと一致)はビナイヤ山頂の稜線裸地で1985年1月5日に採集したものであるが,1983年11月23日に登った時は展葉前であったため発見できなかった。リュウビンタイ科のChristensenia aesculifoliaは掌状に切れ込む葉とミカンのように同心円上に配列する胞子嚢をもつ点で特徴的なシダであるが,セラムの低山地帯の湿った斜面で採集した。ゼンマイ科のLeptopteris alpinaは山地林下の陰湿な斜面にはえる木生シダ(幹の高さは1mかそれ以上)であり,葉が細かく切れ込み,透き通るように薄いのがゼンマイ科の中では独特である。この属はポリネシア・ニュージーランド・オーストラリアからニューギニアにかけて分布する南半球型のシダであり,セラム島はその西端に位置する。マトニア科のPhanerosorus majorはこれまでニューギニア西方のワイゲオ・ミソール・アル島から知られていたが,今回セラム島から採集した好石灰岩性シダである。近縁種P. sarmentosusはボルネオに産する。これらは葉に不定芽をつけ,ウラジロのように新しい羽片を次々と古い葉の上に生じる。配偶体はリボン状で,縁部の細胞から新しい配偶体を生じ,栄養繁殖する。成熟すると受精して胞子体をつくる。これらは乾いた石灰岩上という生育環境に対する適応であろう。新種として記載したコシダ属のD. seramensisは低山地の裸地にはえ,近縁種とは小羽片の長さと幅,毛,脈理の形質の組み合せで区別できる。コシダはセラム・アンボン両島に7変種が分布する。新変種var. seramensisを記載したウラジロ属のG. peltophoraは小羽片が短く三角状で,ソーラスが葉裏面の陥没部につく特徴がある。

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