- 著者
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高橋 弘
- 出版者
- 日本植物分類学会
- 雑誌
- 植物分類・地理 (ISSN:00016799)
- 巻号頁・発行日
- vol.45, no.1, pp.33-40, 1994-09-30
ヤマホトトギスの花部生態学的研究を行い, 近縁なヤマジノホトトギスと比較した。両種は受粉様式の特徴の多くが似ている。花は2日間咲いており, 雄性先熟で, 自家和合性がある。主要なポリネーターはトラマルハナバチである。しかし, ヤマジノホトトギスは花被が基部から1/3のところで平開するのに対して, ヤマホトトギスは下方へ折れ曲がる。トラマルハナバチは折れ下がった花被片に止まってから折れた部分の稜によじ登るか, あるいは直接稜部に止まって, 吸蜜する。隣の蜜腺を探るためには, その狭い稜部を歩かなければならない。ホトトギス属の直立型の花を持つほとんどの種には, 花被の基部近くの内面に黄橙色の蜜標がある。また, ヤマジノホトトギスは同じ場所に大きな紫色の斑点があり, それも蜜標と考えられる。しかし, ヤマホトトギスのその場所には可視斑点は認められず, 特別に紫外線を吸収するか反射する部分もない。花被の稜に紫斑点が集中し, また折れ下がった花被部の紫斑が少ない花では, その斑点は均一に分布せずに稜近くに集まる傾向があるが, そこは他の種の蜜標がある位置より上である。大部分のホトトギス属植物がほととんど同じ蜜標を持っていることなどから, ヤマホトトギスはそれを退化させたと考えるのが自然であろう。いくつかの植物種で, 蜜標を持たない植物は持つものより適応度が下がることが知られている。ヤマホトトギスは蜜標を退化させても, 適応度を低下させないと考えられる。トラマルハナバチはヤマホトトギスの折れ下がった花被に止まると, 頭が必然的に花の基部近くに来るし, 稜部にいても, そこが狭くて窮屈なため, 頭は基部近辺から遠く離れることはない。従って, 蜜の匂いを感じて, 蜜標がなくても正確に蜜腺を探るのかも知れない。ヤマホトトギスに蜜標がないのは, その特殊な花被の形態と関連があると思われる。稜上とその近辺に集まっている斑点は, ポリネーターの着地目標になっている可能性がある。