著者
ブーフォード
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.28-40, 1982

ミズタマソウ属の分類は混乱していて人によって取り扱いが違っている。日本産種についていえば,混乱の原因のうち大切なものが2つあり,その1つはミヤマタニタデの2亜種をはっきり認識していなかったことであり,他の1つは雑種についてよく調べられていなかったことである。筆者はミズタマソウ属についての比較研究を行って,この属には7種7亜種が認められることを確かめた。この研究の成果はAnnals of Missouri Botanical Gardenに掲載される予定である。ミズタマソウ属は東亜に分布の中心があり,日本にも多様な型が見られる。筆者は1977年に日本各地で詳細な野外観察を行ない,1980年にも補足的な調査を行なったほか,日本や欧米のハーバリウムにある標本も丁寧に検討した。これらの研究によって,日本のミズタマソウ属には5種1亜種が認められることを確かめた。これらを識別するための人為検索表をつくると,1 子房と果実は2室で,根茎は塊茎状にはならない…2 2 密腺は花筒部内にあり,円筒状または環状のデイスクになって突出することなはい。花序の軸には,短かくて鎌状に曲がる腺毛と,長くて真直ぐか少し曲がる開出毛がつく…1 ウシタキソウ 2 密腺は花筒の開口部より外へ突出し,円筒状か環状のデイスクとなる。花序の軸は無毛か,腺毛あるいは短かくて鎌状に曲がる毛がつくが,長くて真直ぐか少し曲がる開出毛はつかない…3 3 花弁は倒卵形または広卵形,先へ伸びる部分は花弁の全長の1/4かそれ以上。花序の軸は有毛。さく果は熟するとたてに深い溝が入り,稜は鈍円形…4 4 茎は有毛で,鎌状に曲がる毛が密に生じることが多い。葉は基部がクサビ形または稀に円形。花序はほとんど毛がないか,腺状で鎌状に曲がる毛がつく…2 ミズタマソウ 4 茎は無毛。葉は基部は円形からやや心形。花序は腺状で鎌状に曲がる毛が密生する…3 ヤマタニタデ 3 花弁はコテ形で,先へ伸びる部分は花弁の全長の1/5かそれ以下。花序の軸は無毛。さく果は熟しても深い溝や円形の稜をもたない…4 タニタデ 1 子房と果実は1室で,根茎は塊茎状になって終る…5 5 茎には短かくて反曲した毛がつく。花は総状花序が展開してから開出するか少し斜上する柄の上で咲く。小花柄には小包葉がない。…5a ケミヤマタニタデ 5 茎は無毛。花は総状花序が展開する前に直立か斜上する柄の上で咲く。小花柄には小包葉がある…5b ミヤマタニタデ(狭義) ミズタマソウ属は日本で図1に示すような組み合せで7通りの雑種を作っている。この他,ミヤマタニタデとウシタキソウの雑種と思われる標本が1点だけある。この組み合せの雑種は,稀ではあるけれども中国では知られている。その他の組み合わせの雑種も探がしてみる値打ちがある。特に,ヤマタニタデとミズタマソウの雑種は北海道にありそうである。ミズタマソウ属では雑種は形態的に両親の完全な中間型となり,不稔である。野外では果実のつかないものがあれば雑種である可能性が高い。花粉も普通なら80%以上も成熟するが,雑種では10%以上が完熟することは珍らしい。雑種は生育場所でも母種の中間となり,川沿いのような場所に繁茂することが多い。雑種がつくられると,あとは栄養繁殖をして大きな群落をつくっていることが多い。1 ウシタキソウ Circaea cordata ROYLE 日本・台湾・朝鮮・中国・南東シベリア・アッサム・ネパール・パキスタンに分布し,染色体数はn=11。オオタニタデC. × dubia HARAはウシキタソウとタニタデの雑種である。ウシキタソウとヤマタニタデの雑種(C. × skvortsovii BOUFFORD)らしいものが早池峰山でも採られている(T. Makino MAK 6953)が,ここにはヤマタニタデが生えていない。片親が現在分布していない地域に雑種が生育する例はアメリカでもある。これはその地域にかっては両種が分布していたか,他の地域から動物によって雑種種子が運ばれてきた可能性を推定させる。ヒロハノミズタマソウはウシタキソウとミズタマソウの雑種で,学名をC. × ovata(HONDA) BOUFFORDとする。2 ミズタマソウ Circaea mollis SIEB. & ZUCC. 日本・朝鮮・中国・インドシナ北部・ビルマ北部・アッサムに分布し,染色体数はn=11。ミズタマソウとタニタデは相接して生育している所が多いけれど雑種はあまり見つかっていない。3 ヤマタニタデ Circaea lutetiana L. subsp. quadrisulcata (MAXIM.) ASCH. & MAG. ヨーロッパのsubsp. lutetiana,アメリカのsubsp. canadensisと地理的に分かれており,東アジアからシベリアに分布している。染色体数はn=11。ヤマタニタデとタニタデの雑種が北海道で見つかりC. × decipiens BOUFFORDと命名する。ヤマタニタデとミヤマタニタデの雑種(C. × intermedia EHRH.)は原(1959)のエゾミズタマソウである。4 タニタデ Circaea erubescens FRANCH. & SAV. 日本・朝鮮南部,中国に分布し,染色体数

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (2 users, 2 posts, 1 favorites)

ミズタマソウ& ヒロハノミズタマソウ(推定:ミズタマソウとウシタキソウの雑種) ミズタマソウ属には日本で7通りの雑種があるそうです。その雑種は形態的に両親の完全な中間型になるそうです。 https://t.co/WwZ2zkbHRH https://t.co/OXUnNh7jrV

収集済み URL リスト