- 著者
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谷 誉志雄
- 出版者
- 日本デザイン学会
- 雑誌
- デザイン学研究 (ISSN:09108173)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.5, pp.25-34, 2000-01-31
- 被引用文献数
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近代デザインは, 製品の品質やグッド・デザインなどのクオリティを追究することを標準的な規範としてもっている。そのような「近代デザインのクオリティ」とは異なるクオリティを探究しようとする形態論の方向があることを考察する。この報告で注目するのは, デヴィッド・パイとクリストファ・アレグザンダーの形態論である。これらの理論で探究されているクオリティを暫定的に表現すれば, おおまかに「工芸的クオリティ」と性格づけることができる。パイとアレグザンダーの形態論は, どちらも近代デザイン批判の姿勢をとっており, 近代デザインが喪失したクオリティの重大さを理論的に述べることが基本的なテーマのひとつとなっている。形態論の標準的な用語体系の分節を組み替えるという方法によって, クオリティを顕現できるカテゴリーを理論的視野の中心にもってこようとする試みがなされている。パイでは具体的なデザイン論と工芸論の見直しにとどまるが, アレグザンダーでは「クオリティの存在論」といえる, より大胆な転換が試みられている。