著者
KANASAKI Hajime
出版者
金沢大学
雑誌
金沢大学文学部地理学報告 (ISSN:0289789X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.56-88, 1984-03-29

居住の自由がなかった江戸時代から"出稼"という現象はあった.越中の売薬出稼ぎは代表的なものであり,江戸へ出た越後の"米搗ぎ",酒造に従事した村民の集団,或は各地の城下町へ農閑期を利用して武家や商家等に奉公に来た場合等々,その仕事も多岐に亘ったし,出身地も全国的に広く存在した労働力の地域間移動の現象である.明治になると人々の居住は自由となり,一方殖産興業のスローガンの下で各種の産業が急速に発展したことはよく知られている.この産業を支えた労働力は,大部分は農村から離村し,都市に移った人々によってであったが,それらの産業は今日のように近代化され,機械化されたものではなかったし,経営方針や労務管理も大きく異っていたので,業種によっては大量の臨時的労働力-つまり季節出稼者の-を雇傭した.一方,農村側に於ては,封建時代程ではないにしても,依然として農業のみでは生活出来なかった人々が極めて多かった.経営規模が小さかったり,小作農が多かったりしたことから当然であるが,日本海側の農村地帯のように,冬季は自然条件から必然的に農作業が出来にくい,従って農閑期とならざるを得ないといった理由も加えることが出来る.これを,出稼者を送り出す方の要因であるとすれば,前者は受入れる要因ということが出来よう.この両者の要因が相俟って出稼者を発生させた原因と思われる.本論では,こうした当時の社会的な状況を踏まえて,わが国全体の出様現象がどのように展開して来たか,主として府県単位で稍々マクロに捉え,同時に,出稼者が従事した主要業種について,その盛衰をみたものである.わが国の季節出稼の情況は,第2次大戦を境にして大きく変ったし,又,高度経済成長の始る頃から急速に質量共に変つたので,本論では一応昭和35年までの情況について述べてある.蓋し,戦前戦後で,諸統計の基準が大きく変り,両者の比較が極めて困難になったからである.

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