著者
荒井 啓 山本 明
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.31-37, 1977-03-19
被引用文献数
1

鹿児島県内数ケ所の公園, 街路に植えられたカナリーヤシ(Phenix canariensis Hort.et Chab.)に立枯症状が認められ, その原因を調べたところ, 以下のことが明らかにされた.1.本症状を呈する樹は, 鹿児島市, 指宿市, 揖宿郡喜入町, 鹿屋市, 垂水市, 曾於郡大崎町, 肝属郡佐多町などで認められた.2.病徴は主として下枝に認められ, 初期には葉身の片側半分が枯れるのが特徴である.やがて下枝全体が枯れ, 次第に上枝に進展する.最終的には樹全体が枯れ立枯症状となる.このような樹の葉身, 葉脚, 根の導管内に多数の菌糸が認められ, 導管周辺の細胞は褐変していた.このような現象は, 外観緑色で健全にみえるような部分にもしばしば認められた.3.罹病組織より, PDA培地を用いて菌の分離を行なつたところ, 葉身, 葉脚, 根のいずれからも, 白色綿毛状の菌叢の菌が分離された.この菌をカナリーヤシに接種したところ, 発病が認められ, 立枯症状を呈した.発病株より, 菌の再分離を試みたところ, 根および葉身より, 同種の菌が分離され, この菌が病原菌であることが確かめられた.病原菌の菌糸は隔膜を有し, 隔膜のない短かい担子梗を分岐し, その上に無色単胞楕円形の小型分生胞子(2.5〜5×4〜10μm)を擬頭上に多数形成していた.時には, Fusarium菌特有の大型分生胞子(3〜5×10〜35μm, 4〜5胞)が認められた.培養過程でスポロドキアが高頻度に観察され, 古くなると, 厚膜胞子(径7.5〜10μm)や菌核の形成が認められた.このような培養所見から, 本菌はFusarium oxysporum Schl.emend.Snyd.et Hans.と推定された.4.病原菌の寄主範囲を調べるために, 分離菌を12科26種の植物に"ふすま"を用いて土壌接種したところ, カナリーヤシとナツメヤシに立枯症状が認められた.以上の結果から, カナリーヤシの立枯症状は, Fusarium oxysporumによる病害であることが確かめられた.このようなカナリーヤシの立枯症状は, わが国では報告がなく, 本病を「カナリーヤシ立枯病 : Fusarium disease of Canary Island date palm」と命名した.

言及状況

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