- 著者
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田中 實男
- 出版者
- 鹿児島大学
- 雑誌
- 鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, pp.125-134, 1993-03-31
国民栄養的觀点から, 良質の動物性たん白質の供給源としての鶏卵が首位を占めていたのは1979年(昭和54)までであったが, 現在でも重要な地位を占めている.その鶏卵生産を担った採卵鶏経営は, 1960年(昭和35)ごろまでは農家の80%を占める450万戸で10羽程度の鶏が飼養されていた.しかし, 1965年(昭和40)に生産性の高い外国鶏が過半を占めるころには規模拡大が進行し, こののち経営数の急減と飼養羽数の急増は加速化され, 消費を上回る供給増大のために1974年(昭和49)には, 現在まで続く生産調整が開始された.この間の鶏卵生産の特徴は, 農外資本による鶏卵生産への参入であり, さらには1万羽以上飼養の経営数は10%ながら, 成鶏めす羽数シェアは90%にも達していることである.このように大規模化した採卵鶏経営の特徴は, 専ら規模拡大を指向して絶えず生産技術水準の向上を図っていることである.この点について, 18年間にわたる家族労力経営事例について点検すると, 明確に生産技術水準の向上が確認された.そのことは, 生産性の高い鶏種の導入による側面もあろうが, 他方, 高生産性の鶏種の能力を発揮させ得る管理能力の存在も示している.それらは, 1人あたり管理羽数の増大のなかで成鶏めす羽数規模の拡大を図りつつ, 平均産卵率を70%から75%へ, 平均卵重を58gから62gへ向上して成鶏年間産卵量を15kgから17kgへと増加させている.一方, 生産費の60%も占める飼料費については, 成鶏年間飼料消費量を殆ど増減のない39kgに保ちつつ, 飼料要求率を2.6から2.2へと低下させている.結果として, 管理労働1時間あたり鶏卵生産量は, 15kgから40kgへと向上した.鶏卵生産における生産技術上の改善努力がなされるなか収益性の動向は, 1974年(昭和49)に鶏卵の生産調整が開始され鶏卵価格は停滞するが, 飼料価格は高値を維持したままなので卵飼比は70%にも達していた.1985年(昭和60)の円高によって飼料価格は急落するが, 鶏卵価格も低落したため卵飼比は50%に下落した.しかし, 高卵飼比でも鶏卵価格が高水準の場合は, 所得は可成りの額が実現されるが, 鶏卵価格が低水準になると, 卵飼比は低下しても所得額は増大しない.低卵価のなかでの低所得額が, 現在の採卵鶏経営の実態である.このような状況の場合, これまでは規模拡大による鶏卵生産量の増大によって, 所得総額の維持拡大を図ってきていた.そして, 現在の鶏卵生産は, 規模拡大を行っても生産性水準の維持向上が可能であった経営のみによって担われて来ているのである.このことは, 18年間にわたる家族労力中心の採卵鶏経営の分析においても観察された.このような採卵鶏経営の困難さは, 古くから指摘されていたことでもあって, 採卵鶏を200〜300羽飼養して専業経営と言われた時代にも, 「農家殺すに刃物は要らぬ, 鶏を半年も飼わせれば良い」ということばがあった.鶏卵生産は, 農産物のなかでも所得率の最も低い作目の生産であるために, 昔からも生産技術上の失敗は許されなかったのである.これからの採卵鶏経営は, ますますその数を減じて行くであろう.他方, 鶏卵供給水準を維持するためには, 経営規模は拡大化を続けざるを得ない.その経営規模の拡大を図りつつ採卵鶏経営を存続させるには, 何よりも生産技術水準の維持向上の努力が前提条件となるのである.