著者
伊藤 孝寛
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.670-688, 1999-08-20

異方的超伝導に代表される様々な興味深い物性を示すことで知られる強相関5f電子系化合物UPt_3及びURu_2Si_2について、物性に深く関わるフェルミレベル近傍の電子状態、特にフェルミ面の情報を調べるために高分解能角度分解光電子分光を行った。実験的に直接決定したバンド構造をLDAバンド計算と比較することにより、UPt_3及びURu_2Si_2において価電子帯全体を占めるPt5d及びRu4dバンドについては、バンド計算により定性的によく再現されることを見いだした。それに対し、UPt_3及びURu_2Si_2における物性に深く関わるフェルミレベル近傍のU5f及びU5f-Ru4d混成バンドについては、U5f電子の強い電子相関の効果による繰り込み(renormalization)の効果を受けて非常に幅が狭くなっているため、バンド計算では再現されないことを見いだした。さらに、実験から見積もられたU5f及びU5f-Ru4dバンドの有効質量増強因子は、物性測定から見積もられる値と定性的に一致することを見いだした。また、URu_2Si_2においては、U5f-Ru4d混成バンドによる、dHvA測定ではまだ観測されていなかったZ点の大きなホール面を示唆する構造を見いだした。以上の結果から、高分解能角度分解光電子分光法は、5f強相関電子系化合物において、強い電子相関の効果を受けたフェルミレベル近傍のU5f電子状態、特にフェルミ面の情報を得る上で有効であることが示された。

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