- 著者
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市來 健吾
- 出版者
- 物性研究刊行会
- 雑誌
- 物性研究 (ISSN:05252997)
- 巻号頁・発行日
- vol.76, no.4, pp.584-641, 2001-07-20
- 被引用文献数
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水の中を重力で落ちる粒子の挙動を21世紀の科学は完全に予言できるか、あるいはこんな古典的な現象でも現代の科学は完全に解明できていないのか?この現象を重力だけで水を無視して考えると、粒子は加速運動することが分かる。しかし実際には粒子はある程度の速度でほとんど一定に落下する。速度に比例するような水の抵抗力を考えればこの振舞は定性的に記述できる。しかし更に現実には、この抵抗力がまわりの粒子全ての影響を持つため、多粒子系ではその挙動は複雑である。「流体を直接数値計算してしまえ」という立場もあるが、ここでは流体の粘性が支配的な状況であるStokes近似に徹底的にこだわり、それ以上の人工的な、あるいは仮想的な近似を排し出来るだけ妥協せずにその性質を実感したい。その正確な数理的な情報を得るために数値計算を使おう、というのが本論文の立場だ。物理のカリキュラムの中で「流体力学」は大きく取り上げられないし、microhydrodynamicsと呼ばれる粘性流体中の多体問題は通常触れられない。専門の異なる研究者にこのmicrohydrodynamicsの面白さと難しさも併せて紹介したい。この論文は半分は(独断や偏見に満ちた)レビューで、半分は最近の私の仕事の紹介である。ここで紹介する計算手法は流体力学に限らず一般の多体問題に応用可能であると期待し、「多体問題の数値解析」という広いframeworkを示唆する。Stokes流れの多粒子問題に興味の無い方もこの手法の応用を少し考えて、もし使えそうなら是非チャレンジして欲しい。ここではもっとも単純な、つまり高級な技巧を使っていない計算道具を議論しているだけで、Stokes流れの多粒子問題に対してすら面白い物理現象への応用は示していない。本来私自身がこの道具を使って物理を取り出し尽くした後に「どうだ、まいったか」という論文を書くべきなのだが、逆に読者にチャレンジするspaceが残っている、と挑発しておく。