- 著者
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太田 喜元
秋田 求
- 出版者
- 近畿大学生物理工学部
- 雑誌
- 近畿大学生物理工学部紀要 = Memoirs of the School of Biology-Oriented Science and Technology of Kinki University (ISSN:13427202)
- 巻号頁・発行日
- no.15, pp.1-13, 2005-03-01
古代ギリシアの医師ヒポクラテス(BC460頃-377頃)は、医術に携わることを志す者が立てる誓いを定めた。「医術の神アポロン、アクレピオス、ヒギエイア、バナケイアおよびすべての神々に誓う、私の能力と判断に従ってこの誓いと約束を守ることを」という言葉で始まるヒポクラテスの誓い(Hippocratic oath)の中に、「私の能力と判断に従って患者に利益すると思う医術の療法を用い、悪くて有害と知る方法を決して用いない」という言葉がある。すなわち、生命はかけがえのないものであり、生命に加えるすべての行為から生じる利益は害悪を上回るものでなければならないということである。この誓いは、生命体に影響を及ぼす医術という行為にっいて、倫理的な配慮が必要であることを古代ギリシアの時代から医師という専門家が認識していたことを示すものである。現代に至り、生命の神秘さを遺伝子のレベルで解明し、更には遺伝子を取り出したり組み換えたりする技術を手にした科学者は、古代ギリシアの医師と同じように、生命体に影響を及ぼす行為がもたらす利益(善)と弊害(悪)のバランスについて真剣に考えねばならない。特に農作物は人類を養う食糧の根幹であって生命体に直接影響するがゆえに、その遺伝子組換えにっいては注意深い検討が必要である。また、例え善を目的として研究が行われたとしても、遺伝子組換え作物の是非に対する最終的な判断は、消費者が受け入れるか否かである。消費者がその是非についての判断を下すためには、正しい情報が消費者に提供されなければならない。特に、遺伝子組換え技術を用いて研究し、かつ学生を教育する立場にある者には、安全性や倫理的側面について十分に考え、学生の教育を通じて世の中に正しい情報を提供する責務がある。本論文では、遺伝子組換え作物とはどのようなものであるか、そして遺伝子組換え作物栽培の現状について簡単に述べた後に、遺伝子組換え作物に対する倫理的側面-特に安全性、そして将来に向けての展望-について考察する。