- 著者
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海老沢 研
- 出版者
- 一般社団法人日本物理学会
- 雑誌
- 日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.9, pp.670-677, 2008-09-05
- 参考文献数
- 12
- 被引用文献数
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人工衛星を用いた宇宙観測データは,一定の占有期間の後,解析ソフトウェアとともに無償で公開されることが世界的な標準となっている.データが長期間にわたってアーカイブズ化され,世界中の科学者によって広く共有されることにより,数多くの成果が生み出されるのである.それを目的とし,各国の公的機関が多くの予算とマンパワーを費やして構築した「宇宙科学データアーカイブズ」は,人類共通の貴重な知的財産と言えよう.また,宇宙科学データは,他の多くの分野の科学技術データとは異なり,その利用に金銭的な利害や倫理的な問題が絡まない,という特徴がある.その特徴を生かし,最先端の宇宙科学データを真っ先に取得して世界に公開することは,それによって国際社会からの信頼とリーダーシップを勝ち取るための貴重なソフトパワーになりうる.今後,各国が協力して科学データ共有を進め,国と国との間の信頼関係を高めていくことによって,「科学による安全保障」を実現できるようになるかもしれない.