著者
川瀬 裕子
出版者
札幌学院大学
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.203-222, 2008-03

レイモンド・カーヴァーの作品,『ささやかだけど,役にたつこと』,『大聖堂』,『保存されたもの』の3作品には,共通の設定がある。いずれの作品においても,設定は都市周縁に発展し続ける郊外住宅街であること,登場人物たちは,30代前半の若い夫婦であることである。カーヴァーの作品を特徴づけるこの設定に何か作者の意図があるとすれば,この設定を文学空間とし,20世紀末のアメリカ社会の変貌とそこに関わる人物たちの人生の諸相を描出したことにあろう。郊外住宅街の開発は,アメリカの中産階級の庶民が,自分たちの家を所有するという願望の実現を可能にした。彼らが手中におさめたささやかな夢はその後どのように変化していったのだろうか。アメリカ文化の変容が行き着いた場として,郊外住宅街は新たにアメリカ的特質を生み出したニュー・フロンティアであるといわれて久しい。そこで何が起こっているのか,そこでの住民たちの人生の行方はどのような方向に向かおうとしているのか,カーヴァーは若い家族たちの日常を追いながら彼らの問題の本質に迫ろうとした。この小論においては,限られた空間で向き合う人物たちの周囲の行き場のない重苦しい空気や危げな関係を分析し,彼らに潜在する問題を考察することを意図した。大都市の喧噪や犯罪を避け,理想的な住宅街に見える環境は,やがて,孤独や退屈,不安や空虚の空気が満ちた住空間となっていった。精神的に不毛な日常生活に埋没する人物たちを描くカーヴァーの視点がそうした人物たちの危うい精神構造を見据えていることに留意し考察する。

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