- 著者
-
伊藤 喜栄
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, no.4, pp.327-337, 2009-12-30
小稿は21世紀初頭の世界史的エポックの中で.日本の地域政策が今後どのような内容のものとなるかについて,若干の見通しを述べたものである.このエポックは,2008年9月,リーマン・ブラザーズの破綻に端を発するアメリカ中心の金融資本主義,グローバルエコノミーの崩壊の危機である.このことが日本に及ぼした影響は大きい.アメリカ型の市場原理主義をモデルとして国民経済の構造改革を行ってきた小泉首相が退陣し,その流れにブレーキがかかっただけでなく,さらに自民党から民主党へと政権が交代するという事態をひきおこした.このような世界及び日本の歴史のエポックにより,日本の地域政策は,地域格差の拡大を是認する,ないしは改革の成果とする「地域間競争」(構造改革特区)の時代から,「地域の均衡発展」の時代への移行が予想される.この課題に対して地理学・経済地理学が独自に寄与するとするならば,「地域で政策する」のではなく,「地域を政策する」という立場を貫くことであろう.このことは,地域を所与とし,その内部の個別具体的な施策を地域政策とするのではなく,地域それ自体のあり方(形成のメカニズムとそれを前提とした政策)を問題とするということを意味する.そしてその成果を踏まえて,現代日本の課題である「地域の均衡発展」を考えることが望ましい.その際,地理学の共有財産である機能地域ないしは結節地域と,それらの階層構造,換言すれば地域システムの合理化・適正化を図ることが中心課題となると判断される.