著者
井上 友子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.37-46, 2011-07-31
参考文献数
15

『パンチ、オア・ザ・ロンドン・シャリヴァリ』(『パンチ』誌と略)は、英国民に親しまれた大衆誌として1841年から2002年まで発行された。本誌の特徴は、親しみやすい気質の「パンチ」氏、機智に富む魅力的なテクストや見出し、人情味ある挿絵などであった。『パンチ』誌は、編集長レモンのもと極端な性描写や過激な政治批判がなく、モラルと品位を保った穏健派諷刺誌として知られ、国外でも『パンチ』の名を冠した雑誌が刊行されるほど影響力をもった。しかし1894年、当時ブームとなっていたビアズリーの影響と推察される挿絵の変化とそれに連動したテクストが現れた。本誌の品位を保っていた意匠や挿絵に、レモンが掲げた「パンチのモラル」に反するグロテスクで過激な表現が見られるようになったのである。本研究は1894年と95年の『パンチ』誌を対象とし、挿絵やテクストに現れた急激な変化を通して、ビアズリーの作品が本誌に及ぼした影響を考察した。その結果、『パンチ』誌は大衆誌の宿命としてそのブームを受け入れ、同時にそれに抵抗する姿勢も見せていたと推察される。

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