著者
柏木 隆雄
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学論集 (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-19, 2011

映画と小説と演劇の関係の考察からだけでも、黒澤明と文学という議論は示唆的である。映画は小説や演劇という旧来の二つの芸術に対してどのような特徴をもつだろうか。映画のリアリティは、演劇のそれよりはるかに劣るように思われ、観客にイメージを自由に膨らませることも小説のようには行かない。映画の特徴は、逆説的ながら、イメージを固定させることによって、観客のリアリティへの信頼を克ち得、映画が展開するイメージの連続に酔い、ストーリーに誘うことにある。しかし映画芸術は先行する二つのジャンルの深い影響、少なくともそれらの存在を意識しないでは成立し得なかった。黒澤映画をバルザックという小説家の方法と較べると、そのストーリー性や老人と青年の対立、融和、青年の自立といったテーマにおいて、極めて似るところが多い。さらにバルザックが創出した「人物再登場法」のシステムは、映画において、ある特定の主役、脇役を固定的に何度も使うことによって、『人間喜劇』のシステムが読者に醸し出す効果と、ほとんど同じような結果を得ていることにも気がつく。黒澤の映画がにわかに生彩を無くすのは、常連の俳優たちが姿を消したことによることも大きい。バルザックを読む目で黒澤映画を分析する試みが本論である。

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