著者
ヤコブセン ウェスリー・M
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー = NINJAL Project Review (ISSN:21850100)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-19, 2011-06

ハーバード大学日本語では仮定性や反事実性といったモーダルな意味が状態性や反復性など,未完了アスペクトに関わる時間的な意味を表す言語形式によって表現される場合が少なくない。こうした相関関係は,仮定的な意味が典型的に生じるとされる条件節などの従属的な環境においてのみならず,可能性,願望,否定といった意味が主文に表れた場合にも観察される。本論では,Iatridou(2000)で提案されている過去形の「除外特徴(exclusion feature)」に対して,未完了アスペクトの「包含特徴(inclusion feature)」を提案し,以上の相関関係の説明をこの特徴の働きに求めてみた。それによると,未完了アスペクトには,話者の視点である基準時以外の時点までも想定されるという時間的な特徴が本質的に備わっており,これが転じて,話者の世界(現実の世界)以外の可能世界までも想定されるという解釈へと拡張することによって仮定的・反事実的意味が生じるとする。インド・ヨーロッパの諸言語では,反事実性の意味表出に過去形が関わっている現象がこれまでにたびたび指摘されてきたが,少なくとも一部の言語では,反事実性,ひいては仮定的な意味一般の表出に,テンスとは補完的な形でアスペクトも重要な役割を果たしていることが,日本語のこうした諸現象の検証によって明らかになる。人間にとって現実性の把握に,時間の把握がどんなに深く関わっているかをうかがわせる現象として注目に値する。

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